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絶望とスポーツカー

2023.04.27
高畑龍一

少し前のことになるが、久しぶりに暗鬱たる気分になった。この番組の再放送をたまたま見たからだ。

「ルポ 死亡退院 〜精神医療・闇の実態〜」
https://www.nhk.jp/p/etv21c/ts/M2ZWLQ6RQP/episode/te/XMN1G4994L/

八王子市の滝山病院というところで患者に暴行を振るったり、医療ケアを怠っていたり、さらには家族が「やめてほしい」という延命措置をしていたりという、言語道断な行為が行われていたことを暴いた調査報道だ。その後、この病院の関係者が逮捕されている。

「滝山病院」患者暴行で看護師男を逮捕 警視庁
https://www.sankei.com/article/20230626-X5AJ2PTLPVNS5B5VKB4H4RGP4E/

番組を見始めてしばらくして、このニュースを読んだ時にあまり気に留めなかったことを恥じた。言い訳すると、現代の日本でこれほどの非道が行われているとは思わなかったのだ。この病院と院長の悪名は精神医療界に轟いていたということも後で知った。

ETV特集が秀逸なのは背景にも迫るところだ。病院そのものが一番ひどいが、その裏には、家族は患者と関わりたくないし、行政は厄介者払いしたし、精神科病院の人手は不足しているし、透析治療は儲かるし、生活保護を受けている人は取りっぱぐれがない、といった事情があるとのこと。番組中で識者や関係者が「棄民政策」「必要悪」と言っていたが、これは構造的な問題だと理解した。

その煽りを受けているのがここの患者だ。犯罪者でもないのに好き勝手に手足を拘束され(しかも、それをカルテに記載されず)、「うるせえよ、寝てろっつってんだろ」と怒鳴られて頭を殴られ、床ずれを放置されて悪化し、適切な薬も出されず、それでいて栄養剤は投与される…死ぬまでの間、なぜ地獄にいるのか、訳が分からないだろう。

いや、地獄以下だ。地獄であれば、閻魔様が「お前は無罪放免」と言ってくれる可能性はゼロではない。わずかな望みがある。しかし、この病院では、医師は診察してくれず、職員からは虐待され、家族は音信不通、行政は我関せず…つまり、望みが全くないのだ。文字通りの絶望である。精神科の入院患者だから、仮に逃げても捕まって戻されるだろうし、職員と闘っても勝ち目はないし、もしかしたら自死する機会すらないのかもしれない。精神の自由も身体の自由も奪われた状態。番組の中で元看護師が言った「ここには人間の尊厳はない」という言葉は的を得ている。

この構造は、社会からはみ出してしまった人たちを金を回すツールとして活用するシステムとなって動いている。私たちの税金が、200名の患者の絶望を経て、院長の高級スポーツカーや職員の生活費、医薬品メーカーの売上に化けている。患者の家族や行政の人の負担も大きく軽減する。

資本主義では金を回すことは正義である。しかし、それだけでは棄てられる人が一定数は出るので、さまざまな弱者救済策も同時並行的に進められてきたはずだ。私たちにもこのような病院を是としてきたという自覚はない。ただ、見て見ぬ振りをし、あるいは関心を持ってこなかったのは確かだ。この問題に着目して調査や取材を重ねた番組制作者の方々に敬意を表する。

他方、この病院のWebサイトからは誠意がみじんも感じられない。美辞麗句に妙にきれいな写真。とりあえず体裁を取り繕っている感に満ちている。特に怪しいのは院長の名前も写真も病院紹介もないことだ。自分は事件には関係ない旨の院長声明が載せられているだけ。番組では悪魔のように見えたが、少しは後ろめたさを感じているのだろうか。

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