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プレイン日本語のススメ

2024.04.18
高畑龍一

テレビをつけていたら岸田首相がアメリカ議会で演説する声が聞こえてきた。意外に上手いので思わず見入ってしまったが、プロの方にも評価されているようだ。

岸田総理の絶賛スピーチ「基本レベルの英語」でも大成功のナゼ
https://diamond.jp/articles/-/342117

使われた単語は大学共通テストのレベル。話すスピードはゆっくり。プライベートなネタで笑いを取り、本題に入ると力強いメッセージを発信。具体例を述べた後で、キーメッセージで締めくくる・・・この記事では「日本人が英語で行うスピーチとしては、非常に効果的で、素晴らしいものだったと言えるでしょう」と讃えられている。

この英語はいわゆる Plain English。この記事によると、それでも岸田首相が使った単語はバイデン大統領の演説よりもやや難しいくらいだそうで、アメリカの政治家ならもっと平易な言葉で語りかけるのだろう。

Plain English とは、誰でもが理解できるような明確で簡潔な英語のこと。平易な単語を使うだけではなく、文を短くする、簡潔に表現する、能動態を使うなどの決まりごとがあり、専門用語やクリシェ(決まり文句)、ジャーゴン(隠語)は極力排される。アメリカでは公文書は Plain English で書くべしと定められている。

かつて受けた GMAT というテストもこれだった。例えば文法セクションでは “,which” が入った選択肢は問答無用でダメ。カンマが入ることによって “which” が指す場所が曖昧になるからだ。テクニックを磨くことに長けた日本人受験者にとってありがたいルールだったが、それだけではなく、実際に Plain English は明らかに理解しやすい。あまり考えなくても、言いたいことがスーッと頭に入ってくるからだ。

では日本語はどうか。問題なのはこちらの方だ。

例えば、Plain English では、
 × We made a decision 〜.
 ○ We decided 〜.
とされる。後者の方がパッとみて理解しやすいのは分かるだろう。アメリカでは証券取引委員会(SEC)や多くのメディアも政府に倣っているので、有価証券報告書や新聞雑誌の記事はほぼ後者になっている。

日本語でも、
 × 〜の決定をした。
 ○ 〜を決めた。
のはずだ。こちらも後者の方がパッとみて理解しやすい。

ところが、「〜[名詞]を[動詞]」と書く人の方が圧倒的に多い。元は中国語だった熟語を使うことにより、あえて難しそうな雰囲気を醸し出し、それによって反論を封じ込めようとする気持ちが込められているのではないか。だからと言って反論されないわけではないが、「明確で簡潔」に反し、すぐに理解できない文になる(理解するのに少しでも時間をかけさせて反論しにくくしているという見方もできる)。

さらに、日本人は「自分は日本語が読み書きできる」と思っているので、自分が書いたり話したりする言葉にあまり気を使わない。お互いにネイティブであれば文法が間違っていても意味が通じるので困ることもない。

例えば、
 × 〜は経験値がある。
 ○ 〜の経験値が上がった。
だろう。

前者はスポーツニュースなどでよく聞くので嫌気がさしている。新人だろうがベテランだろうが「経験値がある」のは当然。解説者が言いたいことは、それが高いか低いか、または上がったか下がったかということだろう。そんなことが気になり始めると、解説の内容が頭に入らなくなる。スポーツの話であればいいが、ビジネスの場であれば確実に生産性を下げてしまうので大問題。日本にはプレイン日本語が必要なのではないか。

例えば、今年1月の岸田首相の施政方針演説から。

[原文]
信頼回復の第一歩として合意した「中間とりまとめ」においては、政治資金の透明性やコンプライアンスの徹底など運用面での改革を先行して進めつつ、制度面での改革については、各党各会派との真摯な協議を経て、政治資金規正法改正など法整備を実施していくとしています。
 ↓
[プレイン日本語]
信頼を回復するために、まずは「中間とりまとめ」を合意しました。政治資金の流れを外部から見えるようにする、コンプライアンスを徹底して遵守するなど、運用面を先行して改革します。各党や各会派と真摯に協議して政治資金規正法を改正するなど、法律を整備して制度面も改革します。

もっと短いバージョンだとこうなる。

[原文]
経済、とりわけ、賃上げが今まさに喫緊の課題として求められています。
 ↓
[プレイン日本語]
経済は差し迫った課題です。特に賃上げを急いで実現しなければなりません。

同じ国会でも日本ではあえて威厳ある話し方をしているのだろうか。単に習性なのだろうか。いずれにしろ、プレイン日本語の方がスッと頭に入ってくる。

Web サイト制作やオンラインマーケティングでは、明確で簡潔なメッセージを世の中に発信するために日本語文をリライトしたり、それを外国語に訳したりすることが多いが、私たちが裏側で考えているのはこういうことです。

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