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トキソプラズマと企業カルチャー

2022.12.08
高畑龍一

「私とは何か」は、人を長年悩ませてきたテーマだ。文化や言語、教育、遺伝子、それに最近では腸内細菌など多くのものが「私」を作るとされている。トキソプラズマという寄生虫も「私」作りチームの一員らしい。

オオカミを群れのリーダーにさせる寄生虫、研究で明らかに

https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/22/120200558/

トキソプラズマに感染すると、ネズミがネコを恐れなくなったり、ハイエナがライオンに近付いたりすることは知られていた。この寄生虫はネコ科の動物の腸内でしか繁殖できないのに、そこでは生きられないから、例えばネズミに寄生し、そのネズミをネコに食べてもらうことで、自分をネコの体内に戻すのだ。ネズミにとってはいい迷惑であるが、感染したネズミは仲間内で「勇気あるもの」とみなされるから、それはそれで伴侶探しにプラスになるのかもしれない。

いずれにしろ、トキソプラズマは、宿主の免疫細胞を使って脳に到達し、ドーパミンを増やしたり恐怖感を低下させて、宿主を「勇者」に変える。今回のオオカミの話は、この寄生虫に操られる動物のリストにまた一つ加わったということだが、人間も然り。記事によると、「トキソプラズマに感染している人はより危険な運転を行いがちで、しばしば死亡事故につながることが示されている」。

こうなると「私」はますます訳が分からなくなる。物体としての「私」に数々の寄生虫や細菌、ウィルスが影響を及ぼして「私という人格/性格」ができあがる。「私」は本当は臆病なのに「私の人格/性格」は勇敢ということが起こり得るのだ。「私の人格」は「他者」ということなのか。

そういう個人がたくさんいる集団となると、本当の姿を探るのはますます難しい。スポーツのチームにしろ、会社にしろ、国家にしろ、一概に「特徴は○○」とは言えなくなる。リスクテーカー集団かと思っていたら、トキソプラズマ感染者が多かっただけとか。そうでなくてもトキソプラズマ感染が集団内で流行すると、集団のカルチャーが一変する可能性がある。逆に言えば、そうなってもブレない何かが重要なのだ。

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