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旨い月餅は月餅か?

2022.08.29
中島嘉一

先日いただいた月餅がとても美味しかった。“ザ・ペニンシュラ ミニエッグカスタード月餅”である。世界30カ所以上にペニンシュラ香港から直送している逸品だ。いまどき工場生産ではない。ホテル内の中国料理“ヘイフンテラス”の点心師のお手製で、なんと北海道産の発酵バターを使用。生地は超しっとり、モサモサ感皆無で、しかも甘すぎず、食べ応えはあるがしつこさはない。これぞグローバルスタンダード、世界に愛される月餅だと思わず膝を打った。

実は月餅は苦手なものの一つだ。というか、好きではない。「甘い、重たい」ということに加えて、胡麻なのかラードなのか独特の風味があり、変な木の実まで入っていたりする。アヒルの卵の黄身まで入っているそうなので、そりゃ重たいわけ。カロリーなんて考えてはいけないレベルのお菓子だ。

中国では人気なのか?というと、最近は敬遠されがち。甘いものが手に入らない、貧しい時代なら超有り難い品だったかもしれないが、現代中国人の嗜好にも合うわけがないのだ。

それでも贈答品の筆頭となっている理由はただひとつ、そういう決まりだから。日本でお正月に餅を食べるのが当たり前であるように、中国人は中秋の名月に月餅を食べるのが当たり前。味なんて二の次で、親戚同士や職場で配ることに意義がある。だからこの時期、中国では月餅が飛ぶように売れる。しかし、皆処分に困っているであろうことは想像に難くない。月餅製造メーカーも「伝統を踏襲しながら現代の嗜好に合う月餅」の開発に余念ないが、それでも「月餅としてはまあまあだが、でもあえて食べようと思わない」レベルに留まっている。

では、“ザ・ペニンシュラ ミニエッグカスタード月餅”ならどうか。たぶん中国では微妙だろう。伝統的な月餅とは似て非なるものだと思われるはずだ。月餅とは不味いものであり、無理やり食べるものなのだ。旨い、世界に愛される月餅が存在しても、伝統的な不味い月餅はきっとなくならない。皆うんざりしながらも、毎年中秋の名月には不味い月餅が流通しまくるだろう。

グローバルスタンダードは本国ではウケないということかなどと考えながら、カスタード風味を堪能した。少なくとも月餅はグローバルスタンダードに限る。

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