COSPA technologies

AIに負けない仕事

2022.06.20
中島嘉一

先日久しぶりに「ローカライズ」ミーティングに同席した。

「『ビーチに行く』…これは日本語の『海水浴』とは違いますよね」

「はい。何せアメリカの内陸部から海に行くのは大事ですからね」

「となると、ここは日本人的には『海外旅行』に近い感覚でしょうか」

細かい。超細かい。超面倒くさい。

現場では、このようなやり取りをしながら英語の文を日本語の文へと変えていく。原文の一語一語を訳すのではなく、感覚が近い対象、表現を探り、作品に仕上げる工程だ。私たちの「ローカライズ」は単なる「翻訳」とはまるで異なる。手前味噌ながら、メンバーの仕事ぶりに改めて感服した。

「吉野家でうなぎを食べる気分」という日本語の文だと、それが意味するところは「日常の延長線上だが、ちょっとした贅沢、楽しみを味わう」や「せっかく贅沢しようと思ったのに、結局は手短に済ませることになって悲しい」だったりする。日本人であれば前後の文脈から判断できるが、外国の人にはわからない。

だから、まずはその文章の意図を正確にくみ取り、その上で対象国の常識や行動、メディアや世論に合わせて言葉や文脈を選び直す。「アメリカなら『コストコでプライムリブステーキを買う』かな?」などと検討するわけだが、はっきり言って超めんどくさい。めんどくさいだけではなく、色々なことを知らないとできない仕事だ。

「翻訳」は、機械翻訳の精度が上がると人の出番が少なくなる分野の筆頭に挙げられるが、「ローカライズ」は全く違う。まさに知の結晶だ。めんどうな上にできる人が限られるので、私たちの競合もなかなか現れないが、それもそうだろう。

実は、この「ローカライズ」はかつての企業戦士(シニア)にも向いている仕事だ。日本が元気だった頃に駐在員として海外に居住し、その国の文化に触れ、今でも言語能力も高く、知的好奇心があり、時間的にも余裕のある世代。そういう方々は真面目に勉強してきたし、現在もしている。頭も良い。様変わりする時代の中で、彼らが活躍できる場は「淘汰されない仕事」として残っている。

AIが進化しようと時代が変わろうと、結局人の心を動かすのは人間だけ。そして、そういう仕事ができる人は、一生勉強し、経験を積み、知的好奇心に満ちている人。先輩方の仕事の凄みを見せつけられると、私たちももっと先に行けると意欲が湧いてくる。

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