■BtoB企業で高まるブランディングの機運
長らくBtoB企業にはマーケティングもブランディングも必要ないと思われていた。特に中小企業ではその傾向が強い。営業相手が大手企業のお得意様に限られていたからだ。しかし今や大手企業の部品調達手段は多岐にわたる。お得意様からの受注が急増する見込みはあまりない。となると新たなお客様を探すしかないのだが、「早い・安い・品質が良い」をさらに極めるとすると価格競争に晒される道が待っている。したがって、「良いものを、適正価格で」売らなくてはならない。そのための方法がブランディングである。
日本製造業の高い技術力やアイデア、ニーズにきめ細かく対応する姿勢、そして、その背景にあるこだわりや思いは卓越しているが、実はそれを日本の多くのBtoB製造業の会社は自覚していない。独自の技術や経験にスポットをあて差別化、対価を取れるようにすれば、ただ「高い」と一蹴されてしまうのではなく、「適正価格だ」と世界に認めてもらえる。その手段がブランディングだ。
ブランディング機運が高まっている背景にはサステイナブル(持続可能性社会)に対する時代の要請もある。何を大切にして行動しているのかが問われているのだ。企業哲学への共感や好感を得られれば、理解者が増え、ファンが増える。価格競争から脱却して、ひいては株主や従業員へ価値を還元できるようになる。
■ブランディングは広告宣伝ではない
ではブランディングとは何か。「ブランド企業」と聞くと、洗練されたビジュアルに奇抜なコピーがあしらわれた広告をイメージするが、ブランディングは目に見えるカッコいいことではない。ブランディングとは、事業を推進している根源的な動機と目指している世界を社会に訴えることだ。
例えばある精密部品の会社。幼いころからオルゴールや電車の接合部などを眺めるのが好きで、細かいパーツを組み合わせて何かを作るのが好きな人が集まっており、時間を忘れて細かいチューニングをするような会社だと想像していただきたい。
この会社の根源は「すごく小さいものを作るのが好き」であり、さらにそれが彼らの目指す世界ー「バリアフリー社会を実現する」という想いと結びつき、車いすやVR機材、介助補助機などを開発製造している。とにかく好きなことなので研究開発に没頭し、とことん突き詰めたものを創り出す。10の精度が求められるところを勝手に30まで高める。仕事は苦行ではなく、楽しみながら世の中の役に立っているのだ。
こういう会社にはファンがつき、利益が出れば開発スピードが上がり、よりファンが増えるという好循環になることは容易にイメージできるだろう。 これに対して、よくある「お客様第一主義」を掲げる会社はどうだろうか。お客様のいう事を何でも聞く会社なんていないし、もし本気で聞くとすればそれは奴隷に他ならない。奴隷的に仕事しても、前述の精密部品会社と同様のクオリティは出せない。となると、見る側は「お客様第一主義」は真実ではなく、単に仕事を増やしたいがためのセールストークに過ぎないことを感じ取るのだ。ファンにはなり得ない。
極めて個人的で根源的な動機があってこそ高クオリティのものが生み出される。目指す世界が明確であれば、購買者の心の琴線にも触れる。ブランディングは人の心を動かし社会の推進力になるのである。
では、このブランディングを実際にどのように行うか。次回は「ブランディングのための6つのステップ」を紹介する。
コスパ的、ブランディング大全(2)
『ブランディングのための6つのステップ』