マーケティングでは心理学の「マズローの法則」という法則がよく使われる。 この法則では、生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求の5つに人間の内的欲求が分類されており、それがピラミッドの形で表される。簡単にいうと人間は常に最上位の「自己実現欲求」を目指しているという説である。
私はマーケティングが大好きで、この法則を考えたマズロー氏もとても尊敬している。1943年に提唱したこの法則は今になっても色々な分野で役に立っている。なんでも法則に当てはめて考えたくなる私は、ある日、家探しをマズローの法則に当てはめてみよう、とふと思いついた。
皆さんは家を探すときに、どのような選定基準があるだろう。一般的には立地を考える。例えば、駅から近いかどうか、周りにどんなお店があるか、などなど。その地で暮らすことを具体的にイメージしながら選ぶだろう。
私の家探しの優先順位は「生存可能性」。文字通り「生き残れるかどうか」という意味である。生きてさえいれば、どんなことがあってもやり直せると思っているからだ。
きっかけは初めての一人暮らし、2011年3月東日本大震災の翌年のことだ。またいつか地震が来るかもしれないと言われていた当時、初めての家探しは地震に耐えられる家かどうかが基準になっていた。しかし、私にとって重要なのは建物の耐震性ではない。
今でこそ家を探すときにハザードマップを一度は目にすると思うが、それだけでは物足りないと考えた。
色々調べていたら、日本の地名は過去の地形に由来することが多いと知った。例えば、「渋谷」。諸説あるが、鎌倉時代には潮入りの場所で、かつての渋谷川には海水が流れ込んでいたことから「塩谷(しおや)」と呼ばれたという。 地形上の「谷」であることは明白である。実際渋谷の街を出歩いてみても、坂道が多いことにその場所の歴史を感じる。勝手ながら、そういう場所は基本的に災害に弱いのではないかと思う。
国土地理院で出されている「重ねるハザードマップ」を常用するうちに、旧地図も検索表示できるサービスに出会った。その出会いによって、家探しの際には、地名(住所)によりこだわるようになった。これまで6回引っ越しを経験したが、さすがに毎回旧地図で調べるのは大変。そこで、基本的には地名に気をつけて、「水」に関わりそうな地名には避けるようにしている。県名が避けられない場合は、市名・区名を避ける、市名・区名が避けられない場合は町名で避ける。
家探しをマズローの法則に当てはめてみると、生理的欲求は住むところさえあれば満たせるだろう。安全の欲求は防災が徹底されていて安全に暮らせる場所なら満たせるだろう(私みたいな人)。社会的欲求は住む地域にコミュニティがあったり、友達や両親が近くにいたりすれば満たせるだろう。承認欲求が強い人なら、その地域を住むことで成功している自分として認めてもらえるかどうかと考えるだろう。自己実現欲求が高い方は、自分のためにデザイン設計された注文住宅にこだわるだろう。
このように、5段階の欲求のどこにいるかによって、家探しの基準も異なるだろう。マズローの法則では「生きていく上で感じる欲求やニーズが段階ごとに満たされると上の階層へ移行する」とされている。 いつか自分が安全だと思う条件を全て満たす家が見つかれば、私も社会的欲求を求める段階に入るのだろうか。家探しは当分楽しめそうだ。