子どもがコップの水をこぼした。Macのキーボードの上だ。しばらくすれば乾くだろうと高を括っていたら、いつまでたってもキーボードの挙動が怪しい。
思い返せば、Mac との付き合いはかなり長い。アメリカの大学生協で PowerBook 520c を買い、せっせとFDで「漢字TALK7」をインストールして以来だ。アップル社が倒産しそうになった時は買えなくなったら大変だと慌てて当時の新機種を買ったし、Mac ユーザーの多くがそうであるように周りの人にもたくさん買わせた。「販売店をやった方がいいよ」と言われたこともある。
こうなってくると、Mac と自分のアイデンティティがカブってくる。Mac を買った人が「いいね」と言うと、自分が褒められたような気分。逆も然り。アップル社のマーケティングにまんまとハマっている感じもするが、自分としては主体的に選んでいると思っている。
選んでいる?何を?
少なくとも機能やコスパではない。デザインも、いまではダントツで美しいとまでは言えない。もちろんアップル社の売上高や株式時価総額でもない。アイデンティティの問題なので、詰まるところは考え方なのだ。
しかし、考え方を列挙されただけでは無味乾燥。そうではなくて、スティーブ・ジョブズがガレージで起業したこと、タダでかけられる電話機を売りまくったこと、日本の陶器を愛したこと、会社を追い出されて戻ってきたこと、デザインにこだわりまくって周りがノイローゼになったこと…こういう「こと」の集合が考え方として無理なく受け止められる。
「こと」のほとんどは異常な話だ。だからこそ、その根底に「何か」があるのだろうと感じる。その「何か」がアップル社に対するイメージになる。そして「For the rest of us.」や「Think different.」といったメッセージが決め手となる。社外のファンと社内のスタッフがつながる。意地でもキーボードカバーを使わないファンも出てくるが、それはそれでいい。
さて、最近ご依頼いただく案件が増えている。ここ2年くらい「B2B企業もブランディング」と念仏のように唱えてきたのだが、それが少しずつ理解されてきた実感がある。その中で「どうやってブランディングするのか」というご質問をいただくことが多い。その答えは以上の通り。
事業を推進し続けている根源的な動機はなにか?
事業を通じて、どういう社会を目指すのか?
この2つを「こと」の集合として捉え、それをメッセージやビジュアルで表現していくことがブランディングです。