COSPA technologies

採用サイトはパンクである。

2023.06.19
池田有里

「AIに仕事を奪われる」論が流行だが、目下のところはどこも人手不足。私たちが関わる案件も人材採用目的のWebサイトが増えている。実はこれは楽しい仕事なので大歓迎。概念や権力、そして忖度から一番自由になれるのが採用サイトであり、原点に回帰して本質を追求できるパンクの世界だからだ。

パンクな理由1:パワフル。
採用サイトのターゲットは求職者。彼ら彼女らにとって就職は今も昔も人生の一大事だから、採用サイトを隅から隅まで丹念に見る。そうなると強くシャープなコンテンツが刺さるので、作り手も気合が入れて臨む。
さらに、口コミサイトの存在が企業の採用サイトをより先鋭化させる。ターゲット層は口コミサイトも穴が開くレベルで見て「働いているヒトのホンネ」を必ずチェックする。クライアント企業の担当者も私たちも「本家サイトが口コミサイトに負けるわけにはいかない」とますます頑張るのだ。
オフィシャルな採用サイトの役割は「『陽』の部分を余すところなく伝えること」だと思う。どのような志をもって設立された会社で、困難をいかに乗り越え、社会に何を提供し、未来にむかってどう行動するのか。そういうことは口コミサイトにはあまり書かれない。横並びで比較されもしない。
口コミサイトには「陰」の部分の情報が多いので、オフィシャル採用サイトにはそれを凌駕する「陽」のパワーが必要なのだ。ビジョンとパッションを提示し、どれだけ求職者の共感を引き出せるか。そのためにコンテンツは強くなければならない。平易な言葉でシンプルに本音をさらけ出す必要がある。余計な要素を削ぎ落し、シャープにまっすぐ。パンクの精神に通じる。

パンクな理由2:逃げない。
採用サイトは、業界内の専門用語や慣習などをとことん排除して制作する。できるだけ単純に、誤解させない言葉で内容を伝える。読み手のバックグラウンドに関わらず、誰でも理解できるようにするためだ。さらに「私はこう考えるが貴方はどう?」と問う姿勢も必要。親しみやすく、それでいて凄みも感じさせるという、相反する要求に応えなければならない。
このような仕事では作り手側の力量が問われる。本当にクライアント企業のことを理解しているのか、面白いと思って共感しているのか、換言すると、このサイトを作ることの意義を感じているのか…この辺を明確に意識しないと分かりやすいコンテンツにならないからだ。技巧という名の逃げ道はなく、作り手自身のパンク度が試される。

パンクな理由3:愛と勇気。
採用サイトでは、「優秀な人材の採用」という目的に向かってすべてのコンテンツが作られる。常に意識されるのは求職者の目線。そこに社内力学…部署間の軋轢や派閥争いなどは入り込む余地は少ない(「余地はない」と書きたいが実際にはゼロではない。ただし圧倒的に少ないのは事実だ)。加えて人事部内で決裁されるので部署間の確認などをせずに済む。
だから、奥歯に物が挟まったような表現、借りてきたような言葉は使わなくていい。クライアント企業への想いに基づいていれば攻撃的な表現もできる。忖度不要。作り手の愛と勇気が試されるという意味でもパンクそのものだ。

振り返れば私は人事部員として社会人デビューした。23歳の若造は、部署間のマウント争いのピンポン玉になり、役員争いの地雷を踏み、同期には話せないエトセトラを抱え、「もういやになっちゃう」ことの連続だった(が当時はそれでも元気だった。若さと無知は最強説)。一方で会社の良い部分にもたくさん触れられた。泥の中から咲く蓮が美しいのと同じで、人事部の人間って実は理想主義だし夢も見ているのだ。会社の良心を最も理解しているのが人事部であり採用担当。このことが表に現れるのが採用サイト。うん、やはりパンクだなあと改めて思う次第である。

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