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ネットのスターが変える中国小売市場

2020.11.08
中島嘉一

中国の小売において、ライブ配信の価値が再発見されています。コロナウィルスの前からライブ・コマースが出てきていますが、外出の機会が減ったことを機に、最近、さらに加速しているのです。

中国のライブ・コマースというのは、「KOLがライブ動画配信して商品を売る」という販売形態のことです。よく分からないですよね?

まず、KOLとは、Key Opinion Leaderの略です。日本で言う、インフルエンサーですが、コスメならコスメに詳しいなど、より専門性がある感じです。

そう言うと、YoutubeやInstagramをイメージされるかもしれません。しかし、中国では、その辺のアプリはNGです。Twitter も Line もNGです。その代わりに、微博(Weibo) や 微信(WeChat)、小紅書(Red)などのアプリがいっぱいあります(ちなみに、Tiktokの中国版は抖音という名前で、中身も日本版とは全く違います)。

いずれにしろ、2010年ころから、そのようなSNSや写真投稿サイトで、お気に入りの商品を紹介する人が出てきたのが、KOLの始まりです。中国は不信感の国です。派手な広告は信用しません。大型ECサイトにも偽物があります。信用するのは、知り合いの声だけです。そういう土壌に、KOLが見事にはまりました。

自分が信頼する友人Aさんが、「これ、見てみて」などと教えてくれた先に、AさんがフォローしているKOLの投稿があり、そこで、ある商品がなぜいいかを詳しく教えてくれるのです。そして、人気KOLが勧めた商品はガンガン売れるようになります。

2018年の段階で、中国のKOL市場は1.7兆円と言われていました。この時点での中国のEC市場は70兆円と言われていたので、2.5%のシェアを占めていたことになりますね。その頃から一気に動画の時代に入ります。

先に申し上げた抖音(中国版Tiktok)が大人気となり、他のアプリも動画に力を入れました。その動きに呼応して、KOLも動画を配信するようになります。すると、動画配信が大流行します。中国語は漢字ばかりなので、実は中国人は中国語を読むのが面倒なんですね。文字の投稿を読むよりも、動画を「ながら見」した方が、はるかに楽なんです。

動画を主戦場としているKOLは、ワンホンと呼ばれるようになります。ワンは「網」でネットという意味、ホンは「紅」でスターという意味、です。すなわち、ネット上のスター、です。そのスターがライブ販売する、となれば、ファンなら気になって当たり前です。「買うかどうか分からないが、とりあえず見ておこう」となります。

また、デパートの実演販売のようなものでもあるので、ファンじゃなくても、人が群がっていると、ついつい覗いてみたくなります。しかも、そこでは、憧れのスターが自分に話しかけてくれるだけではなく、多くの商品が特価で、それに、カウントダウンなどの煽りが入りまくる。後で後悔したら簡単にキャンセルできる、という仕掛けが満載なので、視聴者は興奮状態に陥り、思わず買ってしまいます。

こうして、ウェイヤーといったワンホンが5時間で1億円分売ったとか、1日で457億円売ったとかの伝説を次々に生み出します。また口紅王子と言われている李佳琦(リー・ジャーチー)といったワンホンが5分間で1万5千個の口紅を売ったりする。視聴者数は3000万人規模です。

また、張大奕(ジャン・ダーイー)という、元モデルのワンホンなどは、40万人のファンを集めて、2時間で3億円もコスメを売るとか、自身のオンラインショップでも1年間に50億円を売るとか、もはやスーパー営業ウーマンです。

そういうワンホンに憧れて、女子大生などが続々と参入します。それまでは、動画サイトで稼げるとは言っても、せいぜい、色っぽい格好をしてカラオケを歌って、投げ銭という小銭をもらえるくらいでした。ところが、ワンホンになると、家にいながら、スターの気分を味わえ、しかも大金を稼げる、こんないいことはないです。

そうすると、次のワンホンを育てようと、エージェンシーも次々に誕生して、新人発掘に励みます。このエージェンシーは、中国ではMCNと言います。Multi Channel Network の略で、ワンホンのコンテンツや商品販売を、あちこちのプラットフォームに展開するので、このように呼ばれています。

このMCNが、企業に営業をかけて、ワンホンが売る商品ラインアップを増やし、ワンホンが増え、MCNが増え、ワンホンに依頼する企業が増え、というように、好循環になっていました。

しかし、何事もヒートアップして大混乱するのが中国です。

まず、MCNがワンホンを管理できなくなります。先の張大奕が所属する如涵(ルーハン)というMCNは、なんとナスダックに上場しているのですが、上場前に「Vivian裂哥というワンホンに逃げられました。他のMCNも、「人気が出ると、取り分に不満が出て、ワンホンが逃げてしまい、それまでの投資を回収できない」と嘆いています。

中国あるある、ですね。

また、売れるワンホンは実は2人だけ、という説もあります。先に紹介した李佳琦と薇娅(ウェイ・ヤー)だけで、タオバオ・ライブコマースのトップワンホン販売分の80%を占めるというのです。

さらに、売れても儲からない、とも言われています。そもそも、売れるのは1,500円までの価格帯で、しかも、販売実績を作りたいワンホンから強力に値下げ要請があるので、利益が出ない、という不満が企業から出ています。

最後に、MCNが汚い説もあります。視聴者数が何十万人もいて、「買う」「買った」というコメントが山ほどついたのに、ECサイトの方ではアクセスすら伸びない、として訴訟になったケースがあるのです。

また、売れたは売れたが、MCNへ成功報酬を支払った後に、キャンセルの嵐となって、実際に売れたのは少しだった、としても揉めたケースもあります。

いやはや、ですね。

でも、考えてみれば、当たり前のことです。すでに百貨店などで売れている商品であれば、そこで買えないお客様に対する新たな販売チャネルとして、あるいは、アウトレット的な販売チャネルとして、ワンホンのライブ販売を試してみる手はあると思います。

「日本製だから人気が出るだろう」くらいの感覚で、しかも、中位のワンホンに担いでもらって、それで売れるかと聞かれたら、可能性はゼロではないものの、かなり低いと答えざるを得ません。

そこでお勧めしたいのが、会社の人が出ることです。とりあえずは、ライブじゃなくて大丈夫です。最初は録画でも、実際に商品を開発した方や社長が話した方が、説得力があります。日本企業ならではの「こだわり」や「思い入れ」がきちんと伝わります。しかも、いろいろ試してPDCAを回せます。

実は、かくいう私も、自分の動画を中国に向けて発信しています。コンサルタントなので、日本の社会やビジネスを解説しているのですが、ほぼ毎日、中国から相談がくるようになりました。

私なんかの例は置いておくとして、最近は中国の社長も登場しています。C-Tripという旅行最大手の梁建章Liángjiànzhāng社長も、自らあちこちに行って、民族衣装を着て、観光名所を紹介したりしています。これが大好評で、5回のライブ配信で9億円近く販売するなど実際に効果が出ているそうです。

また、格力の董明珠CEOも初登場は350万円ながら、京東との提携10周年記念ライブでは110億円、618のセールの最終日には4時間で1550億円を売っています。さらに、百度のロビン・リーも登場しています。

薇娅に数千万円を払うのは真似できなくても、これだったら、すぐにできますね。やり方が分からなければ、気軽に聞いてください。慣れてくると、動画作りも楽しいですよ。

免疫力を上げるためにも、ウィズコロナの時代は楽しく仕事しましょう。

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