何が起こるか分からないのが中国の面白いところだし怖いところ。2021年7月、中国政府が教育業界に大打撃を与える規則を発表し、中国のEDテック企業や投資会社がのけ反った。
中国民間教育業界、新規制で「深刻な悪影響」予想 株価急落
https://jp.reuters.com/article/china-education-stocks-idJPKBN2EW0DZ
中国の子供たちは、かつての日本の受験戦争がかわいく見えるほどの厳しい競争に晒されている。寝る間を惜しんで勉強させられるのは当然、サッカーや家事はNG。怪我をしたら大変だし、そんな時間があるなら英単語の一つでも覚えろ、と言われる。最近では「詰め込みだけではダメ。総合教育が重要」と競争の幅が広がってきたので、ピアノやアート、ダンス、水泳などにも取り組まされる。親も大変で「週末は地獄。次から次にレッスンに連れて行かなければならず、疲れ果てる」と嘆く。「2人目、3人目を産め」と言われても、財布も身体も持たないのだ。
聞くだけでも疲れるが、本質的な問題は心が育たないことだ。常に競争なので、同級生はライバル。助け合うなんてあり得ない。蹴落とすべき相手だ。勝ち目なしとなれば、戦いの場を変える。知人の子も「英語ではクラスのトップになれないので、数学の家庭教師を増やした」というのがいる。あるいは、手っ取り早くカネで解決する。先の子の同級生は、大量の宿題をこなすために、別の同級生に下請けさせているという。貧富の差を実感させるOJTにはなってはいるが、あんまりだろう。ちなみに、高校卒業までは恋愛も禁止だ。
こういう修羅場をくぐって大学に入ると、ようやくホッとする。学生寮に入れば、親から離れて同級生と生活できる。そこで出会うのが日本のマンガだ。友情、絆、トキメキ、弱虫の主人公、悪人かと思いきや実はいい奴…たいてい「何だこの世界は!?」と衝撃を受けるらしい。そしてハマる。日本の生温い環境で育つとイメージしにくいが、中国の若者にとっては日本のマンガが一種の道徳教本となっているのだ。
マンガの原点は日本の神話だ。それぞれキャラが立った神様たちがイタズラしたりケンカしたりする。その背景にあるのは温暖な気候と豊かな自然。どこにでも食べ物があるから、山も海もありがたい。でも、たまに荒れ狂って怖い。八百万の神。アニミズム。母系社会。だから、似たような環境のアジアや中南欧、中南米などでは、日本のマンガがすんなりと受け入れられる。キリスト教や近代思想、資本主義よりもはるか昔の、心の隅にしまわれていた記憶に訴えかけるのだ。
フランスでも、政府が18際の国民に無料配布した「文化クーポン」は、受け取った人の約6割が日本のマンガを購入するのに使用したとのこと。
仏の若者向け「文化クーポン」、日本の漫画に使途集中
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR1200F0S1A610C2000000/
末裔が海外でも人気者になるとは、神々も想像していなかっただろう。