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× 翻訳 ○ ローカライズ

2022.03.17
高畑龍一

多言語サイト制作をウリの一つにしている私たちは翻訳について議論することが多い。最近もある下訳に対してアメリカ人スタッフがNGを出してきて喧々諤諤。某製品の使用説明の文章が「ややこしすぎる」と言うのだ。仕掛かり中の案件なので具体的には記せないが、例えば「まず3cm開けて、それから2cm戻して」という原文は「少し隙間を開けて」と訳した方がいいと言う。「そうしないと、話が細かすぎてイヤになり、その製品に対する興味も失せる。人によっては、『なぜ開けてから戻すのか?』とか『最終的な隙間は1.5cmではダメなのか?』というような疑問も湧く」とのこと。

たしかに、アメリカ人の話は簡潔だ。大統領も “Go get him.” でスピーチを結ぶお国柄である(3月2日の一般教書演説)。

“Go get him!” Pres. Biden says at the very close of #SOTU remarks.
https://twitter.com/ABC/status/1498868918584324097

なぜ簡潔な方がいいか。まずは、さまざまなバックグラウンドの人がいて、ややこしい言い方をすると通じないことがあるから。英語が話せないアメリカ人も少なくない。だから、大統領のスピーチから広告のコピーまで簡潔な英語ばかりだ。次に、そういう表現を見慣れていると、ややこしい言い方に違和感を抱くようになるからだ。ここまでは一般論。

私見を加えると、一方でアメリカ人はロジカルだからだろう。話が長い時はロジックを述べる時だ。「なぜこのハンバーガーが好きなのか」というような話でも、みんな一家言を持っている。そこで使われる単語やセンテンス=ロジックの要素は簡潔な方がロジックが引き立つのだと思う。

さらに私見。英語は話言葉が基本だからだろう。英語に限らずアルファベットの国の人は読書するときにブツブツ言っていることがあり、なぜかと聞いたことがある。すると、口に出して読んでいて、それを音として感じているのだという。表意文字育ちとは情報の受け取り方が違う。と同時に、話し言葉の音やリズムに敏感で、歯切れ良くてビシッと決まる表現が生理的に好きなのだと思う。

思うところは他にもいろいろあるが、長くなるので別の機会に。いずれにしろ、簡潔な英語は、実は ”Plain English” として規定されている。1978年に当時のカーター大統領が政府で使うことを決め、以来、メディアや投資家向け資料などに普及した。証券取引委員会(SEC)が開示文書作成の指針としてまとめて公開している。

A Plain English Handbook
https://www.sec.gov/pdf/handbook.pdf

この中には、

× in order to
○ to
と短く言い換えろとか、

× We made an application…
○ We applied…
と動詞を使えとか、

× Persons other than the primary beneficiary may not receive these dividends.
○ Only the primary beneficiary may receive these dividends.
と肯定文にせよとか、簡潔に書くためのヒントが満載。IR資料を作る以外の目的でもとても勉強になる。おまけとしては、そのまま日本語にも当てはまることがあるので、日本語文章作成のヒントにもなる。

しかし、Plain English を目指すと日本語の文章を直訳するわけにはいかなくなる。英語のネイティブが理解しやすいようにかなり編集しなければならない。私たちはこれを「翻訳」ではなく「ローカライズ」と呼んでいるが、この作業には時間も費用もかかってしまう。この辺をどのように解決するか。企業秘密なので、興味がある方はお問い合わせください。

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