COSPA technologies

ジャニーズの儀礼

2023.10.12
高畑龍一

「マエカレがジャニーズでね、変なことを強いられて、それで逃げたんだって」。

だいぶ前に知り合いの女性から聞いた話だ。

「変なこと」というのは、いま問題になっている性加害。その彼は後に人気沸騰したグループの一員だったが、デビュー前にクビになったという。

この話を聞いた時は、可哀想だとは感じたものの、そういうことは芸能界ではよくあるのではないかと思った。そして嫌な気分だけが残ったのだが、それは行為がひどいということだけではなく、その行為が洗脳プロセスの一環のように感じたからだった。

「日本的な通過儀礼」ジャニーズが他人事でない訳
日本社会の組織的特色「運命共同体」の大弊害
https://toyokeizai.net/articles/-/707237

あの時に感じた嫌な気分はまさにこれだ。

儀礼を通過するのが怖いのは、以前にはとんでもないと思っていたことを、むしろ正義だと信じるようになるからだ。ジャニーズ関係者は儀礼を通過して「ジャニーズ関係者」と呼ばれるようになり、運命共同体の一員として高揚感に包まれて仕事していたのだろう。被害者やその家族、友人の悲劇は、「正義」のためには仕方ないという認識だったはずだ。

いい子、いい伴侶、いい親だった人の人格が儀礼を経ることで変わってしまう。自分一人で考えて変わるのではなく、他人が設定した儀礼によって変わってしまうところが怖い。以前の人格はなんだったのか。変わった後の人格の方が本来なのか。簡単に変わってしまうものを人格と呼べるのか。つまり「私」とはなんなのか。

前掲の記事によれば、通過儀礼は古来からあるものであり、企業や学校などにも見られるという。すでに組織に属していると気づきにくいので、各自がかなり自覚的になるべきだろう。ジャニーズ問題は私たちに「私」と「組織」との関係をよく考えるように迫っている。

RELATED

MORE

latest

MORE