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Webサイト制作も美しい

2023.05.01
白石アリヤ

「Age Ain’t Nothing But a Number」という曲をご存知だろうか。94年5月、当時若干15歳のシンガー、Aaliyahのデビューアルバムに収録されている。「年齢なんてたかが数字」という挑戦的なこのタイトル、それに違わぬ大人びた歌声。当時中学生だった私は痺れた。ましてや私と年齢も同じ、名前も似ている。

痺れたのはそこだけでない。タイトルの「ain’t」は南部の黒人文化圏でよく使われる言葉で「is not」という意味である。よってこのタイトルは「ain’t(=is not)+nothing」というダブル否定語なのだが、肯定ではなく強い否定になる。何と粋なのだろう。文法上正しくはないが、R&Bの世界ではよく使われる表現に、アメリカという国の懐の深さや多様さ、自由さ、大きさを感じずにはいられなかった。そんなこんなで当時15歳のアリヤ少年(私)は、遠く離れた日本の山梨県からアメリカという広い世界を夢想し、ただただアメリカに憧れて育った。

よく人に「ユニークな経歴ですね」と言われる。航空高校の寮で10代後半を過ごし、卒業後アメリカ留学、その後エトセトラ。常に自分の中にあるのは、広い世界への憧れと探究心だ。未知の世界へ行きたい、想像できなかったものを目にしたい。その思いが先行するためか、そもそも適性があったのかは分からないが、私は言語で苦労したことはない。言語は広い世界の入り口であり、鏡でもあり、それ自体が面白い。

ちょっと分かりにくいかもしれないので日本語の例を上げる。西暦2000年あたりから「生きづらい」「食べづらい」「着づらい」などと「つらい」シリーズが多用されてきた。それまでは「生きにくい」「食べにくい」「着にくい」という「にくい」シリーズだったのが、いつの間にか変わった。最初はカジュアルなエッセイや話し言葉などから変わっていったと記憶しているが、今やNHKや大手新聞もこの「づらい」渦に飲み込まれた。「にくい」は漢字だと「難い」なので「生きるのが難しい」という意味。「づらい」は「辛い」であるから「負担であり苦しい」という意味。日本は西暦2000年を境に色々なものに負担を感じる苦しい国になっているようだ。こんな小さな変化から大きな変化、社会背景や人々の想い、文化に想いを馳せる。言語は面白い。

英語も同様に面白い。英語の美しさは高い論理性に起因する。単数複数、男性女性、当事者と第三者。このあたりの使い分けがはっきりしていて、普通に話すだけで相手に状況を正確に伝えることができる。日本語の場合、主語がなかったり指示語の範囲が曖昧だったりするので、明示されていない情報を読み取るのに苦労する。英語はシンプルな構造の中に明示的な情報が多いので、話者との間に認識相違がおきにくいのだ。勘違いを生じさせないことが、英語圏の文化であり考え方だろうと思う。

余談だが、更に面白いのが、これが筆記となると日米逆になる点だ。欧米人はアルファベットの書き順はもちろんスペル間違いすらあまり気にしない。単数複数は絶対に間違えないのに。「分かるでしょ」と言わんばかりで、大学教授すら「スペル苦手だから間違ってる場合は察してね」と言う始末。日本だとそうはいかない。漢字の棒が一本足りないとか跳ねの角度が違うとか、見た目は同じでも書き順が違うだけで注意される。なんという厳格さ。これはこれで美徳なのかもしれないが、個人的な嗜好で言えば、私は完全にアメリカ派。大切なのは自分の頭で考えて伝えることであり、形式を整えるよりも大切なことがあると常々思う。そもそも漢字は「なぜココに棒が必要なのか」などを合理的に説明することは難しく(説明出来るのかもしれないが日々そんなことやってられない)、子どもは大人の言われたとおりに書くしかないというシロモノだ。これでは思考停止の人間を育ててしまう。一般教養としてやりたい人はトメハネだろうと書き順だろうと好きなだけやればよいが、小学生から国民全員一律にやらせることではないと思う。

話を戻そう。私が今携わっているWebサイト制作という仕事にも英語と似た美しさ、考え方がある。コードで情報を明示し、命令を論理的に伝えないと動かない。こちらが思考停止しては進まない。「察し」など一切ない世界で、ひとつひとつ正しく積み上げた情報がビジバシ決まってくる。私はこの心地よさが好きだ。そして情報を積みあげていくと広い世界が見えてくる。コンピューターという広い世界に私は宇宙を感じる。情報を確実に積み上げていった先には、まだまだきっと誰も見たことのない世界が広がっているんだろうと思う。

小さい頃の夢は宇宙飛行士。地球を宇宙から眺めてみたいと思っていた。それと同規模の野望がコンピューターで叶う予感を感じながらWebサイトを作る今日この頃である。

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