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ゴビ砂漠に響く音

2020.12.30
高畑龍一

モンゴル、ゴビ砂漠と聞けば、雄大なイメージが浮かぶだろう。たしかにそうなのだが、オートバイで走るとなると雄大さに浸っているだけでは済まなくなる。

とあるラリーに参加した時のこと。「タルバガン」というマーモットの巣があちこちにあって、これに引っ掛かってぶっ飛ぶのだ。時速80kmくらいで草原を走っているのだから、かなり痛い。さらに、拳から頭くらいのサイズの岩もゴロゴロしており、こちらも危険。だから、終始少し前の地面を凝視しながら走ることになり、雄大なんだかせせこましいのか分からなくなる。

そんな状態で毎日ほぼ10時間くらい下を向いて走っていると、一種のトランス状態に入る。本当はあちこち痛いのだが、それも感じなくなり、仕事だの家族だの、あらゆることを考えなくなる。楽しいとも感じないのだが、たぶん楽しいのだろう。勘が冴えてきて方角を間違えることが少なくなる。そういう時がまた危ない。

気がつくと、ゴビ砂漠の端っこに差し掛かっており、いきなりスタック。砂に埋まると脱出するのが一苦労なので、ロータリー式のステアリングダンパーを締め上げて、フロントを上げ気味にして砂場に臨むのだが、ちょっと気を抜いた瞬間にスピードダウンしてタイヤが半分くらい埋もれてしまったのだ。バイクから降りて押したり引いたりするが、どうにもならない。1時間ほど格闘してギブアップ。「万が一の時に」と渡されていた衛星電話でレスキューをコールした。ネットが繋がっていない場所では人工衛星頼みだ。

都会とは違って、砂漠のレスキューは気長に待つ必要がある。一服してバイクの陰で昼寝でもするかと思っていた時に、ブーンという嫌な音が聞こえてきた。しかも、音は徐々に大きくなる。ハエかアブの大群だ。すぐに取り囲まれた。昼寝どころではない。ジャケットを振り回して追い払うが多勢に無勢。たぶん半径数キロ以内にいる大型動物は自分だけなのだ。日本を出発した時には想像していなかった状況だ。疲れ果ててウトウトし、結局熟睡できたのは吉。

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