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師に交わればしゅらしゅしゅしゅ

2023.07.10
何幸佳

目に見えるものが好きだ。

手探りで音を見つけるバイオリンよりも鍵盤ごとに忠実に音を出してくれるピアノが好きで、理由も告げず枯れる花より大声でご飯をねだる猫の方がかわいい。料理も同じで、ブラックボックスの中で焼き上がるシフォンケーキよりバーナーで焼き目をつける茄子の方が遥かに好きだ。なので、目には見えない菌が頑張る発酵食品を敬遠していた。

ところが、些細なきっかけからパン作りの虜になってしまった。あるプロジェクトで調査した製パン機。この機械に心を奪われたのだ。

そして、工業用製パン機器のサイトを回遊しながらため息が漏れる。モニターでミキサの数値を管理?そして数値に基づいて湿度を保ってくれる機械だって?何も考えずかじっているパンが、これだけの技術に支えられていたなんて。

小規模の製パンも素敵だが、工場になるとさらに楽しい。ベルトにたくさんのドウが転がりながら流れて行く光景、想像しただけでワクワクする。今すぐ粉を捏ね始めたい!そんな思いに襲われ、三千円で買ったエアーフライヤーでベーグルを焼いて、食べた。味?「食べられるものだった」というところ。…万事初手はこんなものだ。

そのうちに「飲み込める程度のパンが焼けた」ーーそこからバターロールやピザ、ヨーグルトパンやあずきパンにも挑戦していった。一袋目の底が見えるようになり、今度は流行りの日本産強力粉を購入。私の住む上海では多少割高だが仕方がない。

するとーー牛乳や水、温度との相性が中 国の粉とは全く違ったのだ。気になっていた香りもない。でもこれは、中国の小麦粉が良くないということではなく、見てきた動画が日本のもので、日本の水や気候にあった作り方を学んだということだった。日本の粉を中国で使うためのノウハウを開発せねば。
それから製法を解説しているサイトや小麦の特性への理解を促すサイトなども覗くようになり、中国の小麦の特徴を語る重慶のパン屋さんや、中国消費者のパン文化も考慮して新商品開発に励む雲南省のパン屋さんを見つけて、いま密かに応援している。

私たちが関わるプロジェクトにはB2Bの案件が多く、そこにはたくさんの職人がいる。私をパンの世界に引き入れてくれた製パン機器メーカーもそうだ。より美味しく作れるように繰り返している工夫には「創造」という言葉が相応しい。

一方、職人の皆様はよく謙遜する。いつも探し、迷い、世界を広げ続けているだけだ、というのがご本人の感覚なのかもしれない。きっと大きな木の根を辿っては新しい分岐点を見つけ、先端にはたどり着けないが、オリジナルな版図を広げていく楽しみが絶えない過程なのだろう。

寝れない時は、羊を数えるよりも、パンが並んだベルトコンベヤーを思い浮かべる方が早く寝付けそうだ。

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