中国、跨境電商(越境EC)総合試験区46カ所増設、中国の独自貿易システム構築に拍車?ドル支配の脱却目指す
国務院は4月上旬、46カ所の跨境電商総合試験区増設を決定した。現在59カ所にあり、これで全国105カ所に増加する。中国の跨境電商(越境Eコマース)輸出入規模は、高成長を続け、新しいステージに入ったという。中国は何を目指しているのだろうか。
跨境電商総合試験区とは
最初の跨境電商総合試験区は、2015年3月杭州市でスタートした。2016年1月、上海、天津、重慶等12都市、2018年、北京、瀋陽、長春等22都市、2019年12月、南通、福州、洛陽など24市で追加され、全59カ所となっていた。今回の増設で、日本で知名度のある都市はほぼ網羅されている。
その目的は、杭州試験区を見ればわかりやすい。2013年、杭州市に国内初の跨境電子商務試験区が設立された。同年12月杭州市政府とアリババが戦略提携で合意する。アリババのジャック・マー会長は“世界電子商務総部”を杭州に作る、と抱負を述べた。これが今年、105カ所になろうという跨境電商総合試験区の端緒であった。
総合試験区の目標
試験区では、越境ECの取引、決済、物流、通関、税還付、為替等の研究を行っている。
商務部(経産省相当)は4月の記者会見で、跨境電商総合試験区105カ所体制について言及した。それによれば、2019年の越境EC輸出入額は、1862億1000万元(2兆8700億円)2015年の5倍だった。105の試験区は30省市を陸海、内外、東西を双方向に結ぶ、発展の基点になる。実際に行われている内容は、
税制面―試験区内の越境EC輸出企業は、増値税や消費税の免税や、法人税も最低ラインに抑える。
管理面―輸入商品の保税倉庫業務が可能。限度内なら優遇関税が適用される。
決済面-1回の取引が限度額以内なら“簡化小微跨境電商貨物貿易収支手続”の利用が可能。これで国際郵便と変わらない利便性を得られる。
などである。そして越境ECプラットフォームの海外進出を、システムサポートする。
越境ECユーザー数激増
これらを支える中国の越境ECユーザー数は
2016年 4100万人
2017年 6500万人
2018年 1億100万人
2019年 1億5400万人
2020年 2億3200万人
5年で5.7倍に激増している。調査機関iimediaのアナリストは 越境EC発展の方向性を3つにまとめた。
1 95后(1995年以降生まれ)重視。彼らが市場において増々重要な消費者クラスターとなる。ファッション、最新の文化潮流、越境EC等に、極めて高感度な若者の審美眼や生活スタイルを吸い上げ、寄り添う。
2 ユーザーの本物志向。ブランド価値と品質の保証が最も大切な要件となる。各越境ECプラットフォームは、技術力を用いてサプライチェーン全行程のコントロールを強化、消費者権益を保護。
3 口碑(口コミ)の影響力。ネット世論を重視しなければならない、として口コミ指数を公表している。それによれば
1 奥売家 52.5 (2018年広東省で創業)
2 蘇寧国際 50.7
3 京東国際 46.4
4 天猫国際 44.0
5 考垃海購 40.6
となっていて、アリババ天猫国際の評価はあまり高くない。
まとめ
跨境電商総合試験区は、アリババの越境ECに適した、新しい貿易を確立しようという野望からスタートした。同社は海外送金には特に熱心で、杭州呼嘭智能技術(PingPong)という送金会社を設立、2019年2月には英国の送金会社「ワールドファースト」を買収した。SWIFT(国際銀行間通信協会)体制への挑戦を目指す。
ユーザーからの評判はイマイチだが、アリババの野望は、国策とリンクし、徐々に身を結び始めた。最終的には、ドルのくびきから逃れることで、これは国家目標そのものだ。今後の試験区動向には、常に注目しておきたい。