苹果支付(Apple Pay/アップルペイ)、中国への参入本格化
苹果支付(Apple Pay/アップルペイ)はユーザーには理想的
Apple社の電子決済サービス、苹果支付(Apple Pay/アップルペイ)のサービスが2016年2月に中国でも開始され約10ヶ月になります。開始当初は対応する中国国内の銀行は15行だったのが、11月には新たに7行追加され全部で39行となり、中国の主だった金融機関はほぼカバーされました。NFC 方式の苹果支付(Apple Pay/アップルペイ)は、ユーザーから見れば、理想的なモバイル決済サービスだと言えるのは間違いありません。クレジットカード情報を事前にiPhoneなどの端末に暗号化して保存しておき、決済の際には、その取引にのみ有効なセキュリティコードと端末アカウント番号だけが送信されるので、カード情報が購入先に伝わらないのが大きな特徴です。セキュリティ面も強化されていて、決済の際には本人の指紋認証が必要になるので、たとえiPhoneを紛失あるいは盗難に遭っても不正利用はまず起きないといっていいでしょう。しかし、中国のネットユーザーがこの理想的な決済サービスに乗り換えるかというと、それは現状ではあまり期待ができません。先行するモバイル決済の2強、微信支付(WeChat Pay)と支付宝(Alipay/アリペイ)はいずれもユーザー数は4億人を超えています。多くのユーザーは既にこれらにすっかり慣れ親しみ、満足しているので、よほどのメリットがない限り新しい方式に乗り換えることはないでしょう。
銀行側の思惑
苹果支付(Apple Pay/アップルペイ)の本質は決済サービスではなく、ユーザーと銀行との単なる橋渡しに過ぎないという見方があります。iPhone上にバーチャルなキャッシュカードを作り上げているだけだというのです。苹果支付(Apple Pay/アップルペイ)が銀行との提携なしには成立しないサービスなので、彼らにとっては安心なパートナーといえるでしょう。支付宝(Alipay/アリペイ)や微信支付(WeChat Pay)は銀行のネットワークに依存しないため、銀行側は手数料を徴収出来ません。また銀行預金が支付宝(Alipay/アリペイ)や微信支付(WeChat Pay)に流出し、その資金によって新たな金融サービスを展開していて、それは銀行にとっては脅威になっています。銀行にとって苹果支付(Apple Pay/アップルペイ)を後押しすることは、モバイル決済での出遅れを取り戻すのと同時に、自己防衛でもあります。銀行が苹果支付(Apple Pay/アップルペイ)を普及させるための対策として考えられるのが、外部の決済サービスへ送金できる金額の上限を引き下げることです。例えば、中国工商銀行は支付宝(Alipay/アリペイ)への送金額を月5万元までに制限していますが、今後、苹果支付(Apple Pay/アップルペイ)の利用を促すために制限額を更に引き下げるかもしれません。
Apple社の足枷
Apple社が外国企業だという事実は無視ができない大きなハンデです。苹果支付(Apple Pay/アップルペイ)の中国進出に当たって銀聨(Union Pay)との提携がなされたのは、Apple社が望んだのではなく、そうせざるを得なかったとも言われています。中国当局が銀聨(Union Pay)にApple社の動きを監視させ、コントロールするためで、銀聨(Union Pay)との提携が苹果支付(Apple Pay/アップルペイ)の中国進出の条件であったといわれています。Apple社としてはグーグルの二の舞はしたくないし、自分の立ち位置が中国寄りであるということを示し続けなければ中国でのビジネス展開ができなくなるというリスクを抱えています。かつては1か月分の給料を超える価格のiPhoneを持つことは中国ではクールであり、一種のステイタスであったのですが、最近では逆に「カッコ悪い」と思われ始めているようです。「愛国」の名の下iPhoneを持っていることが批判されることもあって、以前はiPhoneを見せびらかしていた人たちも、敢えて自分の持っているのが中国製のスマートフォンだと分かるようにしているそうです。苹果支付(Apple Pay/アップルペイ)が将来、支付宝(Alipay/アリペイ)や微信支付(WeChat Pay)という中国の2強を切り崩し始めたら、今度は中国市場から締め出されるかもしれません。
将来はNFC ?
QR コード決済は安全性が低く、利用に際してネットに接続しなければならないとか、モバイル端末がオンになっていなければならないといったデメリットも指摘されています。微信支付(WeChat Pay)と支付宝(Alipay/アリペイ)は QR コードにより市場を拡大すると同時に、より安全で便利な NFC 決済を模索し始めているようです。これまでモバイル決済に対してはどちらかというと当局による規制が緩く、支付宝(Alipay/アリペイ)や微信支付(WeChat Pay)に有利であったのが、ここに来て監督強化の動きが見られはじめています。これは支付宝(Alipay/アリペイ)や微信支付(WeChat Pay)にとっては逆風で、銀行や銀聨(Union Pay)、さらには苹果支付(Apple Pay/アップルペイ)にとっては追い風になるでしょう。今後はNFC 決済をめぐって激しい競争が展開されていくのではないでしょうか。