中国×イノベーション第2回モバイル決済の発展
モバイル決済は、現代中国を象徴する光景である。ほとんど全ての店舗決済に利用され、生活に不可欠の存在だ。さらにネットインフラとして、新しい業態の登場を促した。決済の課題を解決したことで、開発者はアプリの機能に集中できたのである。そして世界的な人気アプリも現れる。モバイル決済は、なぜ急速な普及したのか。21世紀以降の決済の歴史を踏まえ、検証してみよう。
銀聯カードの登場
2013年以降、激増した中国人訪日客は、みな銀聯カードを持っていた。銀聯カードとは何だったのか。
銀聯カードの誕生は2002年。当時の銀行ATMは、上海なら上海の口座しか利用できず、同一銀行間ですら遠方への送金はできなかった。銀聯カードは、まず地域と他行をつなぐ試みとして登場した。これにより商取引は、急速に近代化した。中小事業主は、盗難や従業員の持ち逃げリスクから、解放された。
個人には、デビッド機能付きキャッシュカードとして現れた。やがて翌月一括引き落とし、の信用機能が加わる。国際クレジットカードが普及していない時代、これは消費者から熱烈に歓迎された。そのため発行する銀行側は、こぞってこの機能を強化した。やがてVISA、Master との提携カードにまで進む。海外にまで急拡大し、2014年ごろ、その地位は万全と思われた。それが急転直下する。
支付宝(アリペイ)の登場
アリババは2003年、C2Cネット通販の「淘宝網」を立ち上げた。支付宝とは、この支払いツールだった。購入者が商品を確認してから、代金を振り込む、メルカリと同じ資金プール方式だ。翌2004年には淘宝網から分離独立。2005年には、通販による損失の全額保証を開始した。
2008年、公共料金の支払いに進出。2010年、国有4大銀行の1つ「中国銀行」と信用カード業務で提携。2011年には人民銀行(中央銀行)から、国内初の「支付業務許可証」を交付される。
2013年、MMF「余額宝」2014年、小口金融商品「花唄」を発売、いずれも大成功をおさめ、総合金融プラットフォームとなる。
モバイル決済発進
2011~2012年にかけて、電信3大キャリア(中国移動、中国電信、中国聯通)は、それぞれ電子ビジネスの子会社を設立した。支付宝は、協力してバーコード決済を完成させ、QRコード決済の研究を重ねていた。また2013年は、余額宝の成功により、巨額の資金を保有していた。また同年、小米(シャオミ)は799元の低価格スマホ「紅米手機」を発売、普及に貢献した。さらに年末には4Gサービスが開始される。2013年末までに、モバイル決済発進の準備は、すべて整った。
翌2014年は金融決済の“革命年”または“元年”と位置付けられた。この年、モバイル決済の市場規模は、5兆9925億元、前年比391.3%とほぼ4倍増となる。
実際に2014年から、支付宝決済可能な商店が爆発的に増加した。屋台から物乞いまでQRコードを装備している、と日本でも話題になる。銀聯カードのように、サインや暗証番号入力、さらに読み取り機器導入の必要もなかった。
4年で30倍に
市場調査機関の艾瑞は、2014年の段階で2018年のモバイル決済市場規模を18兆3000億元と予測していた。しかし現実は190兆5000億元だった。予想の10倍以上、2014年の30倍以上である。誰の想像も及ばないスピードだった。各年の伸び率は
2015年…103.5%
2016年…58.8%
2017年…73.6%
2018年…86.6%
直近の2019年第一四半期の伸び率は、24.7%であった。
アリババとテンセント
市場はアリババの支付宝、テンセントの財付通(微信支付WeChat pay+Tenpay)で2分されている。
2019年第一四半期の市場シェア(南方財付網)は
支付宝…53.8% 財付通…39.9%
第3位の蘇寧支付は1.7%、4位以下は1%に満たない。
2015年のシェアは、支付宝…72.9%、財付通…17.4%だった。財付通が支付宝を追いかける構図が続いている。
現実には、財付通=Wechat payである。最大の強みは、ユーザー数11億を誇る国民的SNS、Wechatと連動していることだ。Wechatは、個人間売買、また現在大流行している社区団購(共同購入)でも基本インフラである。金額では支付宝に及ばないものの、取引回数シェアでは支付宝を上回った、というデータもある。
すっかり影の薄くなった銀聯カードは、どうしているのだろうか。2017年12月、国有企業の強みを生かし、各銀行提携による「雲閃付(Union pay)」アプリを立ち上げた。1年後にはダウンロード数1億を突破する。まだ“その他大勢”の1つに過ぎないが、“官”の力で、シェアを上げていく、と見られている。
モバイル決済の発展は、決済リスクの軽減、利便性の大幅向上をもたらした。その結果、消費者向けの新アプリ、新ビジネスが空前の賑わいを見せている。そして今、虹彩認証、顔認証決済へ、技術はさらに先へ進んでいる。無現金社会の実現は、目前に迫ってきた。