ポストコロナ時代のKOLビジネスモデル~ライブ・コマース、もう一つの戦略~
中国の小売において、ライブの価値が再発見されています。
中国の小売の場合は、コロナウィルスの前から、ライブ・コマースが出てきていますが、外出禁止を契機に、最近、さらに加速しているのです。
中国のライブ・コマースというのは、「KOLがライブ動画配信して商品を売る」という販売形態のことです。
よく分からないですよね?
まず、KOLとは、Key Opinion Leaderの略です。
日本で言う、インフルエンサーですが、コスメならコスメに詳しいなど、より専門性がある感じです。
そう言うと、YoutubeやInstagramをイメージされるかもしれません。
しかし、中国では、その辺のアプリはNGです。Twitter も Line もNGです。
その代わりに、Weibo や WeChat、Redなどのアプリがいっぱいあります。
Tiktokもありますが、中国版は抖音という名前で、中身も日本版とは全く違います。
いずれにしろ、2010年ころから、そのようなSNSや写真投稿サイトで、お気に入りの商品を紹介するKOLが出てきました。
中国は不信感の国です。派手な広告は信用しません。大型ECサイトにも偽物があります。信用するのは、知り合いの声だけです。
そういう土壌に、KOLが見事にはまりました。
自分が信頼する友人Aさんが、「これ、見てみて」などと教えてくれた先に、AさんがフォローしているKOLの投稿があり、そこで、ある商品がなぜいいかを詳しく教えてくれるのです。
そして、人気KOLが勧めた商品はガンガン売れるようになります。
2018年の段階で、中国のKOL市場は1.7兆円と言われていました。
この時点での中国のEC市場は70兆円と言われていたので、2.5%のシェアを占めていたことになりますね。
その頃から一気に動画の時代に入ります。
先に申し上げた抖音、中国版Tiktokでしたね、これが大人気となり、他のアプリも動画に力を入れました。
その動きに呼応して、KOLも動画を配信するようになります。
すると、動画配信が大流行します。
中国語は漢字ばかりなので、実は中国人は中国語を読むのが面倒なんですね。
文字の投稿を読むよりも、動画を「ながら見」した方が、はるかに楽なんです。
動画を主戦場としているKOLは、ワンホンと呼ばれるようになります。
ワンは「網」でネットという意味、ホンは「紅」でスターという意味、です。
すなわち、ネット上のスター、ですね。
マンマで申し訳ありませんが…
そのスターがライブ販売する、となれば、ファンなら気になって当たり前です。
サザンのライブと同じです。
買うかどうか分からないが、とりあえず見ておこう、という心理になりますね。
また、デパートの実演販売のようなものでもあるので、ファンじゃなくても、人が群がっていると、ついつい覗いてみたくなりますね。
しかも、そこでは、憧れのスターが自分に話しかけてくれるだけではなく、多くの商品が特価で、それに、カウントダウンなどの煽りが入りまくる、後で後悔したらキャンセルすればいい、という仕掛けが満載なので、視聴者は興奮状態に陥り、思わず買ってしまいます。
こうして、ウェイヤーといったワンホンが5時間で1億円分売ったとか、1日で457億円売ったとかの伝説を次々に生み出します。
また口紅王子と言われている李佳琦Lǐjiāqíといったワンホンが5分間で1万5千個の口紅を売ったりする。視聴者数は3000万人規模です。
また、张大奕(ジャン・ダーイー)という、元モデルのワンホンなどは、40万人のファンを集めて、2時間で3億円もコスメを売るとか、自身のオンラインショップでも1年間に50億円を売るとか、もはやスーパー営業ウーマンですね。
そういうワンホンに憧れて、女子大生などが続々と参入します。
それまでは、動画サイトで稼げるとは言っても、せいぜい、色っぽい格好をしてカラオケを歌って、投げ銭という小銭をもらえるくらいでした。
ところが、ワンホンなら、家にいながら、スターの気分を味わえ、しかも大金を稼げる、こんないいことはないですよね。
そうすると、次の薇娅を育てようと、エージェンシーも次々に誕生して、新人発掘に励みます。
このエージェンシーは、中国ではMCNと言います。
Multi Channel Network の略で、ワンホンのコンテンツや商品販売を、あちこちのプラットフォームで展開するので、このように呼ばれています。
このMCNが、企業に営業をかけて、ワンホンがかたげる商品ラインアップを増やし、ワンホンが増え、MCNが増え、ワンホンに依頼する企業が増え、というように、好循環になっていました。
しかし、何事もヒートアップして大混乱するのが中国です。
まず、MCNがワンホンを管理できなくなります。
先の张大奕が所属する如涵(ルーハン)というMCNは、なんとナスダックに上場しているのですが、
上場前に「Vivian裂哥というワンホンに逃げられています。
他のMCNも、「人気が出ると、取り分に不満が出て、ワンホンが逃げてしまい、それまでの投資を回収できない」と嘆いています。
中国あるある、ですね。
また、売れるワンホンは実は2人だけ、という説もあります。
先に紹介した薇娅と李佳琦だけで、タオバオライブコマースのトップワンホン販売分の80%を占めその他のワンホンは、そこそこファンがいるとは言っても、当たるも八卦、だというのです。
さらに、売れても儲からない、とも言われています。
そもそも、売れるのは1,500円までの価格帯で、しかも、販売実績を作りたいワンホンから、強力に値下げ要請があるので、利益が出ない、という不満が企業から出ています。
最後に、MCNが汚い説もあります。
視聴者数が何十万人もいて、「買う」「買った」というコメントが山ほどついたのに、ECサイトの方ではアクセスすら伸びない、として訴訟になったケースもあります。
また、売れたは売れたが、MCNへ成功報酬を支払った後に、キャンセルの嵐となって、実際に売れたのは少しだった、としても揉めたケースもあります。
いやはや、ですね。
でも、考えてみれば、当たり前のことです。
サザンもBTSも、そもそも人気があります。
聞いたことがないアーティストがオンラインでコンサートをすると言っても、誰もチケットを買いませんね。
商品販売も同じことです。
すでに百貨店などで売れている商品であれば、そこで買えないお客様に対する新たな販売チャネルとして、あるいは、アウトレット的な販売チャネルとして、ワンホンのライブ販売を試してみる手はあると思います。
「日本製だから人気が出るだろう」くらいの感覚で、しかも、中位のワンホンに担いでもらって、それで売れるかと聞かれたら、可能性はゼロではないものの、かなり低いと答えざるを得ません。
そこでお勧めしたいのが、会社の人が出る、ことです。
とりあえずは、ライブじゃなくて大丈夫です。
最初は録画でも、実際に商品を開発した方や社長が話した方が、説得力があります。
日本企業ならではの「こだわり」や「思い入れ」がきちんと伝わります。
しかも、いろいろ試してPDCAを回せます。
実は、かくいう私も、自分の動画を中国に向けて発信しています。
コンサルタントなので、日本の社会やビジネスを解説しているのですが、ほぼ毎日、中国から相談がくるようになりました。
私なんかの例は置いておくとして、最近は中国の社長も登場しています。
C-Tripという旅行最大手の梁建章Liángjiànzhāng社長も、自らあちこちに行って、民族衣装を着て、観光名所を紹介したりしています。
これが大好評で、5回のライブ配信で9億円近く販売するなど実際に効果が出ているそうです。
また、格力の董明珠CEOも初登場は350万円ながら、京東との提携10周年記念ライブでは110億円、618のセールの最終日には4時間で1550億円を売っています。
さらに、百度のロビンリーも登場しています。
薇娅に数千万円を払うのは真似できなくても、これだったら、すぐにできますね。
やり方が分からなければ、気軽に聞いてください。
慣れてくると、動画作りも楽しいですよ。
ウィズコロナの時代は、免疫力を上げるためにも、楽しく仕事しましょう。