日本における医療インバウンド
2015年頃から、海外からの病気治療の患者や検診者を受け入れるインバウンドを増やそうという動きが、全国に広がっています。この日本における「医療インバウンド」に迫ってみます。
目次
医療ツーリズムと医療インバウンド
「医療ツーリズム」とは医療サービスを受けることを目的として他国へ行くことを意味します。そしてこの医療ツーリズムを使って、国内での医療産業を発展させたり、外貨を稼ぐというものが「医療インバウンド」です。すなわち、訪問客にとっては「医療ツーリズム」で受け入れる側にとっては「医療インバウンド」なのです。
一般社団法人「メディカルツーリズム協会」によると医療ツーリズムの定義で目的は大きく3つに分類され、1つ目は「治療」を目的としたもの、2つ目は「健診」を目的としたもの、そして3つ目は「美容・健康増進」を目的としたもので、これら3つの違いは、渡航するにあたって「医療」の要素と「観光」の要素がそれぞれどれだけの比率かによります。
「治療」を目的とした医療ツーリズムの場合は、その治療内容によっても異なりますがが、医療への比重が大きく、ほとんどが観光の要素を全く含んでいないかその比重が比較的小さく、具体的な治療としては、がん治療や心臓病治療、臓器移植など高度な医療が挙げられます。
「健診」を目的とした医療ツーリズムの場合は、具体的には、人間ドックやPET検診などが挙げられ、「美容・健康増進」を目的とした医療ツーリズムの場合は、比較的に医療よりも観光への比重が大きなものとなっており具体的には、美容エステやスパ、森林療法、海洋療法などが挙げられます。
医療ツーリズムと潜在需要
前述のような目的で医療ツーリズムを行うために、病院の整備をすることによって二次的な意味合いで病院の整備が注目されるようになりました。医療ツーリズムを行うような病院においては当然外国人向けの対応が充実してきますので、したがって現地にいる外国人あるいは観光で渡航してきた外国人にとっては、この医療ツーリズムを行う病院は非常に重要であり魅力的なのです。
日本においては医療ツーリズム自体の進捗は他のアジアの国に比べると遅れていました。2020年には日本の東京でオリンピックが開かれますし、日本は温泉をはじめ多くの観光資源に恵まれるために観光客数も年々増加しており、また日本で働く外国人も増加しています。
こういった在日外国人に対しての医療の対応をどうするかという課題が持ち上がっていたのですが、しかし面白いことにこれらに対しての対応策としてはやはり医療ツーリズムを行うような外国人対応ができる病院ということになり、医療の外国人対応の問題と医療ツーリズムとがマッチングしたのです。
観光と医療のセット「医療インバウンド」
「医療インバウンド」は、前述の医療ツーリズムの説明の通り、医療と観光を組み合わせた「医療観光」や、世界最先端の診療・治療を受けるものまで多岐にわたっています。医療分野は安倍政権の成長戦略の柱の一つでもあり、「地方創生特区」で医療観光に取り組む自治体もあります。
言葉の問題など外国人を受け入れる際の障害をどう克服するかなど課題も多い中で、「医療立国」に向けた施策が進んでおり、医療分野のインバウンドの総数について具体的な統計はありませんが、あるリサーチによると「医療目的で日本に来る人は年間数千人規模」と推定されています。
中国語など言語対応や治療費の回収といった課題もあり、特に医療観光の場合は相手国にネットワークがないと難しいとされていますが、人間ドックを受けに来日する人が多いことから、日本は検診や出産などで国内病院が競争力を発揮できるとしており、さらには、「相手国の病院に出資して、高度医療が必要な患者に日本の本院に来てもらう形での医療観光が、今後主流になる」という見方も示されています。
その他アジア諸国の医療インバウンド
医療インバウンドの分野ではお隣の韓国は日本を大きく上回っているといい、また、タイやシンガポールなどは、医療を外貨獲得のための産業と位置づけて、ビザの緩和など国を挙げて外国人患者を呼び込んでいることから、中国などの富裕層や医療費の高い米国の患者を中心に増加傾向にあるといいます。
日本の病院の現状
日本政府は2011年に医療滞在ビザの発給を開始しており、外国人患者などの身元保証を行う事業者を経済産業省と観光庁で審査して登録しています。登録事業者の身元保証が医療滞在ビザの発給の条件で最長は6カ月、数次ビザ(有効期間中は何度でも出入国可)も可能で、有効期限も病状を踏まえて3年まで延ばせます。また2013年には、厚生労働省の検討会が、医療法人が海外現地法人に出資できることを明確化するなど、海外からの医療観光を後押ししています。
国内の医療機関をみると、海外在住者専用の受け入れ窓口があるのは千葉県鴨川市の亀田総合病院で、医療観光を実施しているのは、鹿児島県指宿市のメディポリス国際陽子線治療センターと栃木県日光市の獨協医科大日光医療センター、徳島市の徳島大糖尿病臨床・研究開発センターで、これに先端医療分野で外国人患者を受け入れている病院が、国立がんセンター東病院や重粒子医科学センター病院、大阪大医学部付属病院、京都大医学部付属病院などがあり、主なものだけで全国に約50施設あります。
他に先駆けて中国から患者や検診者を受け入れてきたのが亀田総合病院で、日中国交正常化後に30年以上も前から、日本に来る中国人留学生が医学部を卒業した後の医学研修を受け入れており、中国側の同病院への信頼は厚いといいます。
2013年に行われた「外国人患者の受入れに関する調査集計結果」によれば、2012年に日本滞在中に医療が必要になった外国人766人の89%を日本の病院が受け入れており、それらの病院に「外国人患者受入れを実施するうえで、今後、政治、行政、民間が整備すべき要点」をあげてもらったところ、医療通訳や多言語化した文書がないことが問題視されていることを受けて、従来のJMIP(ジェイミップ:外国人患者受入れ医療機関認証制度)以外に医療通訳を養成する事業や、多言語化した文章を作成する事業を行うこととなりました。
民間企業の医療ツーリズムへの取り組み
民間の医療ツーリズム事業の展開としては、株式会社ジェーティービーは交流文化事業の一環として医療ツーリズムの促進に取り組み、「ジャパン・メディカル&ヘルスツーリズムセンター(JMHC)」という機関を立ち上げ、徳洲会系列の病院を中心に国内の病院と提携しています。JMHCは現在「一般財団法人日本健康開発財団」と同じ事務所で運営しています。その他にも、中国と北海道を中心に活動を拡大している企業もあり、医療ツーリズムが活発化しています。
以上、医療ツーリズム、医療インバウンドを取り上げて紹介しましたが、一般社団法人「メディカルツーリズム協会」によると、医療ツーリズムの定義で「検診」と「美容・健康増進」も医療の一部、若しくは同等のようにに定義されていることに、筆者の心情としてはいささか疑問を覚えるのです。たとえばヘルスツーリズム、ヘルスインバウンドという言葉で本当の医療とは区別すべきではないのか、その方が公的な扱いの上でも良いのではと考えるのですが、美容整形の施術も医療行為と言われれば止むを得ないのですがスッキリしない思いです、皆様はどう御思いでしょうか。
情報参照元:
https://mainichi.jp/articles/20151008/org/00m/010/018000c
[newspicks url=”https://newspicks.com/news/2749501″]