中国の3大電子マネー、結局どれがいいの?
中国では、日本を上回る勢いで、急速にキャッシュレス化が進んでいる。同国の電子マネーで御三家と言われるのはAlipay (アリペイ、支付宝)、WeChatPay(ウィーチャットペイ、微信支付)、UnionPay(ユニオンペイ、銀聯)の3者だ。個々のサービス内容には細かい違いがあり、「WeChatPayはクレジット機能がない」「UnionPayはスマホと紐付けてNFC(近距離無線通信)で払える」などが挙げられる。その違いを徹底的に説明していこう。
目次
中国の電子マネー事情
電子マネーの普及率
中国における電子マネー普及率は、ここ数年で急速に伸びている。都市部に絞ると、人口に対する普及率は98.3%にまで成長した。日本での電子マネー普及率がわずか6%である事を考えると、中国と日本では普及率に大きな格差があることがわかる。(出典:日銀決済機構局2017年6月「モバイル決済の現状と課題」)
日本で電子マネーが普及していない理由には、使い勝手の悪さが挙げられる。申し込みや設定が煩雑な上に、利用にあたっての制約も多く、仕組みが分かりにくい。利用に漕ぎつけるまでのハードルが高いのだ。
また、コンビニエンスストアや大型チェーン店なら、何かしらの電子マネーに対応しているが、「この店では使えても、あの店では使えない」というケースが多々ある。さらに、個人商店などの小規模業態では電子マネー自体をほとんど導入していない。電子マネーでは決済できない店舗やサービスが依然として多いのだ。
また、個々の電子決済サービスによってカバーできる範囲が異なってくる。Aは特定のお店で使う以外はポイント還元率が低い、税金はBでしか払えない、交通費はCでしか決算できない、などだ。この背景には、各プラットフォームが競合するばかりで、シェアの獲得合戦に躍起になっているという事情がある。
対して、中国のAliPayやWeChatPayは、誰もが利用できるプラットフォームとして成立している。デジタルデバイスに慣れ親しんでいる世代から、場合によっては高齢者までが利用できるツールになっているのだ。
さらに、中国では基本的に電子マネーはどこでも使える。決済手数料が無料のため、個人店や街角の屋台に至るまで、電子マネー導入に障壁がないからだ。消費者は家賃から光熱費、日々の買い物、交通費まで、あらゆる支払いを電子マネーに1本化できる。
また、Alipayは利用しているうちにセサミクレジット(芝麻信用:個人信用評価のこと)が貯まるため、本来ならクレジットカードが必要なサービスの一部を利用できる。さらに、預けているお金をMMCに移行して運用できる機能もあるので、多額の預け入れをする人もいる。反対にWeChatPayは少額をチャージし、小銭入れ感覚で使うのが一般的だ。
“御三家”以外の電子マネー
冒頭で挙げた“御三家”以外にも、中国の電子マネーは実に多い。モバイル決済アプリも含め、中国の支払い用プラットフォームで代表的なものは以下だ。
・百度銭包(Baidu Wallet)
・銀聯在線支付(Union Pay Online Payment)
・支付宝銭包(Alipay Wallet)
・空付(Kung Fu)
・楽付宝(IHappyPayment)
・翼支付(Best Pay)
・盒子支付(iboxpay)
挙げればキリがないほどで、中には全く知られていないものもある。2018年4月時点で、AliPayとWeChatPayが市場の9割以上を独占してしまっており、他の支払い方法は、全くと言っていいほど出番がない状況だからだ。
中国の電子マネー市場規模
■ペイパルとは比較にならないユーザー数
電子マネーの先駆者的存在といえばPayPalがある(1999年にその前身であるX.com社としてイーロン・マスクによって設立)。PayPalは、日本語を含むさまざまな言語に対応しており、全世界で2億2000万人が利用している。しかし、WeChatPay とは比較にならない数だ。WeChatの月間アクティブユーザー数は2018年3月の発表で、すでに10億人を突破しており、そのうち6億人がWeChatPayのユーザーでもある。
■お賽銭も物乞いも電子マネー
中国では、物乞いにあげるお金や寺院でのお賽銭にすら、電子マネーが使える。それほどまでに仕組みが分かりやすく、シンプルだということだ。QRコードさえプリントアウトできれば、どんなものでも「AliPay対応」「WeChatPay対応」になるのだ。
中国の三大電子マネーの概要比較
AliPay(支付宝) | WeChatPay(微信支付) | UnionPay(銀聯) | |
設立年 | 2004年 | 2006年 | 2002年 |
管理会社 | アントフィナンシャル(螞蟻金服) | テンペイ(財付通) | 中国銀聯(中国人民銀行) |
本部 | 杭州 | 深セン | 上海 |
海外対応 | 180の国や地域(国際ブランドのクレジットカードと関連付け可能) | 25の国でアプリを使用可能(国際ブランドのクレジットカードと関連付け可能) | 170の国や地域 |
性質 | サードパーティプラットフォーム | サードパーティプラットフォーム | 国営企業 |
アクティブユーザー |
8.7億(国内5.5億) (2018年5月発表) |
6億
(2017年末発表) |
2.6億 |
QRコード支払い限度額 | 500元/日 | 500元/日 | なし |
割り勘機能 | あり | あり | なし |
NFC対応 | なし | なし | あり |
デポジット凍結 | 不可 | 不可 | 可 |
クレジット機能 | セサミクレジット | なし | 銀聯クレジットカード |
ATM現金引き出し | 不可 | 不可 | 可 |
(2018年7月現在)
現状でシェア1位の電子マネーは?
国内に数ある電子マネーだが、これらの中でトップシェアを誇るのはAliPayだ。中国の調査会社Analysis易観の発表によると、その割合は2017年第4四半期で54.3%で、過半数を占める。
AliPayの次に来るのがWeChatPayの38.2%で、残りの7.5%がその他の電子マネーだ。UnionPayは、携帯にデビットカードを登録して使う、NFCペイメントを提供しているが、対応している店舗が少なく、さほど普及していないのが現状だ。
中国電子マネーの本家本元「AliPay」
AliPayはやはり、中国の電子マネーにおける元祖と言える。WeChatPayに先駆けること10年、2003年にサービスを開始しただけあり、ノウハウを豊富に持っている。
また、母体にアリババグループを持っているため、現在も同社傘下のECサイト「タオバオ」の主要決済方法となっている。タオバオは中国国民にとってアマゾンのような存在だと言えば、その普及率も想像に難くないだろう。
「Alipay」対「WeChatPay」、モバイル決済の対決
モバイル決済としてシェアの大半を占めているのは、AliPayとWeChatPayだ。両者の優劣を比較するのは困難なものの、機能性や汎用性、資産運用のしやすさを考えると、AliPayに軍配が上がるとの見方が優勢だろう。