なぜ今インド市場?インドのPMIから読む製造業の輸出急伸にみる“調査すべきポイント”とは
1. なぜ今、インド市場が注目されているのか
「輸出受注が過去最高」──製造業PMIの急上昇から見える動き
「インドの製造業が、世界からの注目を一気に集め始めた」──そんな兆しをデータで裏づけたのが、2025年6月に発表されたPMI(購買担当者指数)です。この月、インドのPMIは61.0という高水準を記録し、特に「輸出向けの新規受注」が過去最高水準に達したことが報じられました。これは一時的な景気回復ではなく、グローバル市場での継続的な受注獲得を示す構造的な変化と考えられます。具体的には、欧州・中東・ASEANなど複数の地域からインド製品への関心が高まり、製造業の国際競争力が強まっている証拠です。海外市場調査を行う上では、このようなマクロ経済指標を起点に、「今どの国に勢いがあるか」を見極める視点が重要です。トレンドを数値で把握することは、現地進出や販路開拓の成否を分ける大きな判断材料になります。
政府主導の産業支援と“Make in India”の効果
「政策が市場をつくる」と言われるインドで、実際に産業を強力に後押ししているのが「Make in India」戦略です。政府はインフラ整備や法人税の優遇、輸出企業へのインセンティブ導入などを通じ、製造業の競争力を高めてきました。2024年以降は中小企業の設備投資支援やデジタル化推進も積極的に進められており、これまでグローバル展開が難しかった企業も、海外市場へのアクセスがしやすくなっています。たとえば、インド国内で製造された工業部品が中東経由で欧州市場に出荷されるなど、輸出ルートの多様化も進んでいます。こうした政策環境は、海外営業のパートナー選定や販路構築にも影響を与える重要な要素です。市場調査を行う際には、業界の盛り上がりだけでなく、その背景にある政策や制度改革の流れを丁寧に読み解くことが、正しい市場理解につながります。
中国やASEANと比較したインドのポテンシャル
「次のグローバル製造拠点はどこか?」という問いに、インドを推す声が日増しに高まっています。かつて“世界の工場”と称された中国に対し、インドは地政学的リスクの少なさや英語対応力といった強みを武器に、“チャイナ・プラスワン”の最有力候補として浮上しています。また、ベトナムやインドネシアといったASEAN諸国と比較しても、インドは圧倒的な人口規模、高度人材の供給力、スタートアップ支援の厚さなどで明確な優位性を持っています。さらに、最近ではインドに進出した外資企業による技術移転やサプライチェーンの構築も進み、内需と輸出の両方を狙える市場として注目されています。海外市場調査では、このように他国との比較を通じて「どこが自社にとって最も適した成長市場か」を見極める視点が欠かせません。
2. インドの製造業を調査する際に押さえたいポイント
輸出が伸びている注目業界はどこか?
インドの製造業の中でも、現在とくに輸出が好調なのは「自動車部品」「化学製品」「繊維・アパレル」の3分野です。たとえば、インドの自動車部品メーカーは欧州や東南アジアからの受注を伸ばし、EV関連や高機能部材の供給で評価を高めています。化学分野では、医薬品中間体や工業用素材の安定供給能力が強みとなり、グローバルな需要を取り込んでいます。また繊維業界では、大手SPAブランドのOEM供給先として採用が進み、技術力とコスト競争力の両立が評価されています。これらの業界で求められているのは、価格だけでなく、納期の厳守や品質管理体制など総合的な取引力です。海外市場調査では、統計だけでなく、実際に取引されている商材や商流を調べながら、自社の提供価値と現地ニーズが一致する業界を見つけることが成功の糸口になります。
どのデータを参考にすればよい?信頼できる情報ソースの見極め方
インド市場を調べるうえでまず悩むのが、「どのデータを信じればいいのか」という点です。実際、情報源によって数値やトーンが異なることもあるため、信頼性を見極めた上で複数のソースを組み合わせて調査を進めることが肝要です。公的な情報でまず頼りになるのは、日本貿易振興機構(JETRO)の現地レポートや、インド政府系の投資促進機関「Invest India」による統計・産業レポートです。さらに、IBEF(India Brand Equity Foundation)では英語で最新の業界情報や市場トレンドが入手可能です。補完的に、経済産業省や外務省のレポートも合わせて確認することで、視野を広げられます。海外市場調査を行う際は、単一ソースに依存せず、一次情報と二次情報のバランスを取りながら、事実ベースで意思決定できる土台をつくることが重要です。
現地企業・競合他社の動きを知るには?無料でできるリサーチ手法
海外市場調査において、現地企業や競合他社の動向を把握することは不可欠です。とくにインドのような多様性のある市場では、表面上の統計だけでは見えない“実態”をつかむには、企業レベルでのリサーチが有効です。たとえば、LinkedInでは業種や企業規模、役職、活動エリアなどを検索でき、営業先リストの作成にも役立ちます。また、ZaubaやImportGeniusといった輸出入データベースを活用すれば、「どの企業がどこに何を出荷しているか」を細かく分析することができます。こうした情報は、現地の需要構造や競合との立ち位置を把握するだけでなく、パートナー候補の見極めや提案資料の精度向上にもつながります。無料で使えるツールを活用して得た一次情報を、戦略的なアクションに落とし込むスキルこそが、海外市場調査の実務的な価値を左右します。
3. 日本企業がインド市場を狙うときの実務的な視点
現地パートナーや販売先の探し方とアプローチ方法
インド市場で販路を築くには、「いかにして信頼できる現地パートナーと出会えるか」が極めて重要です。言語や文化の違いがある中で、自社に適した流通先・販売代理店・提携企業を見つけるには、複数の手段を組み合わせる必要があります。たとえば、JETROや中小機構が主催するビジネスマッチングイベントでは、現地との面談機会を効率よく得られます。また、LinkedInのSales Navigatorを使えば、業界・役職・企業規模などの条件から候補を絞り込み、事前に相手の関心や発信内容を確認したうえでアプローチできます。加えて、インド国内で開かれる見本市(Auto Expoなど)への出展や視察も、現地ニーズを肌で感じながら取引先候補を探す実践的な方法です。海外市場調査を成果につなげるには、「調べて終わり」ではなく、調査から実際の出会いにどうつなげるかという視点が不可欠です。
「輸出」だけでなく「現地生産」が注目される理由
これまで日本企業が海外展開する際は、製品を国内でつくり、そのまま輸出するモデルが主流でした。しかしインド市場では、現地での生産・供給体制の構築を視野に入れる企業が増えています。その背景には、3つの大きな理由があります。1つ目は関税や物流コストの抑制、2つ目は顧客からの即納・小ロット対応へのニーズ、3つ目は「Made in India」表示による信頼性と販路拡大の効果です。実際、日系メーカーの一部では現地企業との合弁による生産拠点設立や、アセンブリラインを用いた最終仕上げの地産化が進んでいます。こうした動きは、単に価格競争を避けるだけでなく、現地での営業活動やブランド認知にも好影響を与えます。海外市場調査においては、「売る国」ではなく「つくる国」としてのポテンシャルを評価することも、今後は欠かせない視点になっています。
日本とインドの商習慣の違いと営業活動への影響
インド市場での営業活動を円滑に進めるには、文化や商習慣の違いを理解した上で柔軟に対応する力が求められます。日本では“予定通り・段取り重視”がビジネスの基本とされますが、インドでは“柔軟性と即応力”が重視され、予期せぬ変更や即断即決を求められる場面も珍しくありません。特に意思決定プロセスにおいては、トップマネジメントによる独断的な判断が一般的なため、営業担当者が直接オーナーやCEOと関係性を築くことが、商談の成否を左右します。また、言語は英語が通じやすいものの、話し方やニュアンスの違いから誤解が生じるケースもあります。そのため、事前に丁寧な情報共有と合意形成を図る姿勢が求められます。海外市場調査では、このようなビジネス慣習の違いも事前に押さえておくことで、現地での商談・交渉に備える実践的な準備ができます。
4. まとめ:海外市場調査からビジネス展開へ
マクロデータと現場情報をどう組み合わせるか
海外市場調査において最も効果的なのは、「大きな流れ(マクロ)」と「現地のリアル(ミクロ)」をセットで分析することです。たとえば、インドのPMIや経済成長率といった統計から全体の勢いを確認しつつ、実際に現地でどのような商品が流通しているか、どの価格帯が売れているかなどの具体情報を現地営業やバイヤーインタビューなどから拾っていく手法です。この両面を組み合わせることで、「数字では有望でも、自社には合わない市場だった」といった判断ミスを防ぐことができます。さらに、マクロで見たトレンドが実際にどの都市や地域で具現化されているかを見極めることで、エリア戦略の精度も高まります。特にインドのように都市ごとに所得や文化が異なる国では、こうした組み合わせ分析が戦略設計の質を左右します。
市場調査に使える無料ツール・サービスの活用例
海外市場調査は、今や専門の調査会社やコンサルタントに依頼しなくても、無料で手軽に始められる時代になっています。たとえば「Googleトレンド」を使えば、インド国内でどんなキーワードが注目されているのか、製品やテーマごとの検索関心を視覚的に把握できます。また「Trade Map」では、各国の貿易統計をもとに、特定の製品がどこからどこへどの程度輸出されているのかといった情報を確認できます。
さらに、LinkedInやX(旧Twitter)といったSNS上では、現地企業や業界関係者の投稿から最新トレンドや市場感を読み取ることも可能です。加えて、JETRO(日本貿易振興機構)や経済産業省、各業界団体が提供する地域別・業種別レポートも非常に有益です。最初の一歩は、これらの無料ツールをうまく活用するだけでも、現地ニーズや競合環境を事前に把握する助けとなり、営業や販路戦略に活かすことができます。重要なのは、情報を集めること自体ではなく、それをどう分析し、自社の行動に落とし込むかという視点です。
調査結果を戦略につなげるための次のステップ
市場調査の本当の価値は、「調べたこと」ではなく、「調べたあとに何をするか」にあります。情報を集めて終わるのではなく、そこから仮説を立て、具体的な営業や販路戦略に落とし込むことが不可欠です。たとえば、ある業界で需要がありそうだとわかったら、まずはその分野の現地企業や意思決定者をリストアップし、LinkedInやメールで接点を作る行動に移すべきです。さらに、展示会やオンライン商談会に参加して、実際の反応を確認しながら、自社の強みがどのように評価されるかを確かめていくとよいでしょう。
商談が進んだ後は、契約条件や納期、支払い方法、現地法規制といった実務レベルの検討にも移行していきます。調査→仮説→接点→検証→実行という一連の流れを意識することで、海外市場調査は単なる情報収集ではなく、売上につながる具体的な行動戦略へと変わります。