インバウンド政策が生んだ“バルセロナの悲劇”
1992年にオリンピックが開催されたスペインのバルセロナ、その後はインバウンド政策により世界屈指の観光都市となりました。しかし、今のバルセロナは観光客に街を占拠されたとでも言えそうな悲劇に見舞われています。2020年の東京オリンピックを控え、そして観光客誘致のインバウンド政策を推進する日本はこのバルセロナの教訓を受け止め活かさなければなりません。
バルセロナが抱える悩み
バルセロナはオリンピックが開催されたのを機に観光都市として発展するために必要なインフラ整備などのインバウンド政策を施行したことが、やがて功を制してスペイン随一の観光都市となりました。サグラダファミリアをはじめとするガウディの建築、砂浜のビーチ、スペイン料理、これらを目当てにバルセロナには連日のように世界中から観光客が押し寄せており、年間観光客数は約3200万人と、同市の人口160万人の約20倍にも上ります。バルセロナで訪問者が必ず訪れるというランブラ通りでは平日で1日に20万人が通行しているというのですから、混雑という表現を通り越してもはや異常事態とも言えます。もともと地元の人向けだった市場は観光客で溢れかえり、なかなか前に進むこともできないほどで、地元住民が買い物をする状況ではなくなり、そしてほとんどの客が「見物して帰るだけ」で売り上げが半分に減った店もあるといいます。さらに、観光客の騒音といった迷惑行為も住民を悩ませています。深夜に酒に酔った観光客が朝まで騒ぎ続け、路上で嘔吐したり“用を足す”観光客の姿もあり、それが男性ばかりでなく女性までもなのです、人通りの少ない路地はまるでトイレのように使われ、ゴミも平気で捨てられていくといいます。また、イタリア人観光客数人が全裸で店を訪れて地元の新聞で報道され住民に衝撃を与えています。
中国人観光客が急増した日本では
訪日中国人観光客の急増した日本ですが、それに伴い良くないニュースも目にします、銀座へ爆買いに訪れた中国人親子の光景ですが、母親が小さな男の子にオシッコをさせているのです。のどかな田舎のあぜ道ではそのような光景は気になりませんが、銀座の街中での出来事なのです。また、私自信の体験ですが、北海道の小樽の観光街にあるガソリンスタンドに寄ったときのことです、事務所の脇のトイレで用を足して出てきたときに男女4人連れの観光客が近寄ってきました、すると店員が走り寄ってきてトイレの利用を拒否したのです、そしてガソリン代を支払う時にその店員がまるで私に言い訳でもするかのようにつぶやきました「トイレ掃除が大変だから」と。中国人のトイレの使い方を巡るトラブルは全国各地で話題となっています、用を足したあとのトイレットペーパーを流すのではなくゴミ箱に捨てるとか、“ありえない汚れ”などトイレのマナーが深刻化しています、これは中国と日本の生活習慣の違いによるところも大きいといえます。今では外国人向けにトイレの使い方の説明書きが貼られるようになりましたが、日本のインバウンド政策において、あらかじめ外国の生活習慣を分析して想定される問題点を抽出して広報するような動きはあったでしょうか。“国土交通省観光庁”のホームページを調べてみましたが、「訪日外国人旅行者の受入環境整備」には該当するものはなく、「外国人旅行者の増加にともなうトラブルに関する自治体向け安心・安全相談窓口」というのがあり、その主旨はというと「外国人旅行者の増加に伴い、地域における不慮のケガ・病気などのトラブル事例が・・・」というもので私の意とするものは見つかりませんでした。先の銀座での中国人親子の行動はトイレを借りようとしても拒否された結果なのかも知れません。バルセロナの事態とは少々異なりますがいずれにしても観光客に起因した問題であり、民間レベルでの対策には限界があります。
バルセロナ住民の訴え
サグラダファミリアを訪れている観光客には「観光客が街を殺す」というステッカーが目に入るはずです、「観光客は出て行け」という落書きもみられるとか。騒音が激しい海岸近くの地区では、寝ることができず病院に通う高齢者もいるほどだといいます。問題は騒音だけではありません、観光客用の民泊施設が急増して街が消えてしまうと訴えているのです、「地元の友達の6割がこの地区から出ていってしまった」と地元の住民が話します。家賃もこの4年間で2倍に高騰してその結果、「もう住むことができない」とか、「住むよりも売った方が利益になる」と考えた住民が地区から相次いで出ていっているのです。「わずか1キロメートル四方のこの地区からこの1年で400人の住民が出ていきました」と語る人もいれば、更には「昔は漁師と労働者が住む小さな村みたいな場所でここならではの文化があった。昔のコミュニティーはなくなり、通行人が通るだけの場所になりつつある」という話も聞かれます。
観光客削減に乗り出したバルセロナ
ポブレ・ノウ地区には7万人が住んでいるのですが、この地区のホテルのベッド総数は2万にも上り、さらにグラシア地区では観光客用に提供しているマンション(民泊施設)が1万5000戸もあるといいます。また、こうした民泊施設が増える中、一般市民向けのマンションが不足しており賃貸料が上昇しているといいます。バルセロナ市が市民に困っている問題を尋ねたところ、去年まで首位だった「失業」を上回り、今年は「観光客」が首位となりました。こうした事態を受け、バルセロナ市は中心部で新たなホテルの建設を禁止したほか、民泊の数を制限するなど観光客の削減につながる政策に乗り出しました。3月中旬には市長が「2020年に向けた観光都市計画」を発表し、今後は民泊を目的としたマンションの固定資産税を引き上げると同時にこうしたマンションの新たな認可をやめる考えを明らかにしました。また、ベッド・アンド・ブレックファスト(B&B)への規制も強化し、年間貸し出せる部屋を制限するといいます。バルセロナでは2016年10月から1年間、歴史地区での新たな商業施設等の開設を禁止しているほか、2017年1月末には市議会で2019年以降新たなホテルの建設を禁止する法律が可決されています。
バルセロナ市の幹部はこう語っています、「観光は制限しないといけない。野放しに発展させるわけにいかない」「五輪の時には観光を発展させつつ秩序を保つというビジョンに欠けていた。今は観光客であふれている。過去の政策は反省しないといけない。」と、オリンピックを控え外国からの観光客誘致を進めている日本は、観光客を増やすことだけを優先してきたバルセロナの失敗から学ぶべきことは多いと思います、「秩序を保つというビジョンに欠けていた」の言葉は既に今の日本に言えなくもありません。このバルセロナの教訓を活かして日本のインバウンド政策を見直す必要があるかもしれません。