中国のスタートアップはすごいのか ?!
たしかに、古くはアリババ、最近ではドローンのDJIやTIKTOKのバイトダンスなど、すごい企業はたくさんあります。さらに、スマホ決済やシェアエコノミーなど、ニュービジネスは花盛りです。そして、「中国のイノベーションはすごい」と言われます。
でも、我々日本人としては「本当にそうなの?」と思いますよね。
この違和感の正体は何なのか?本日、これを皆さんと考えたいと思います。
その前に、そもそもイノベーションとは何でしょうか?イノベーションをどのように定義すべきでしょうか?
イノベーションは、オーストリアの経済学者シュンペーターの『経済発展の理論』におけるキーワードです。1912年の著作です。「イノベーション」は意外と新しい概念ですね。
シュンペーターが言ったのは、企業者が生産を拡大するため、生産方法や組織といった生産要素の組合せを組み替えたり、新たな生産要素を導入したりする行為がイノベーションであり、こういう企業家の行為が景気循環の源である、ということです。
この企業家は「entrepreneur」で、いまは起業家と言われていますね。
改めてイノベーションの定義をおさらいしたのは、これこそが日本人が感じる違和感の元じゃないかと思うからです。
たしかに、シュンペーターの定義に則れば、「中国はイノベーション大国」です。
しかし、我々がイノベーションという言葉から想起するのは、技術的な革新とか創造的な発明ということではないでしょうか?
シュンペーターの定義から言えば、街の煎餅屋が借金して機械を買って激辛煎餅を作って大手スーパーに納品した、ということでも十分にイノベーションということになります。
これはこれで素晴らしいことですが、革新的という感じは受けません。
違和感の元が分かったところで、中国を見てみます。
2018年の11月に、中国で遺伝子操作ベビーが誕生したというニュースがありました。
衝撃的な話だったので、覚えている方も多いと思います。
南方科技大学准教授の賀建奎(フー・ジェンクイ)という人がやらかした事件です。
世界中から非難が殺到し、雲隠れしたような感じになってしまいました。
いま「やらかした」と言いましたが、日本的イノベーションという観点からはそうなりますよね。革新性は「CRISPR -Cas9(クリスパー・キャスナイン)」というゲノム編集技術にあり、賀教授は倫理面に目をつぶり、資金を集めただけ、と見えるのです。
だから、我々は、クリスパー・キャスナインのベースに、大阪大学の研究チームのDNA塩基配列の研究があったことに興味を覚え、密かに尊敬したりするわけです。
私から見ると、中国の派手なビジネスも同じです。
特にインターネットビジネスは、海外の競合相手から政府が守ってくれるので、やりやすい。
資金面でも、政府が海外流出させないので、中国国内でファイナンスしやすい。
自動運転、シェアエコノミー、スマホ決済、動画SNS・・・・・など、ほとんどが、革新的な技術やアイデアは海外のものを拝借し、巨額の資金を調達して、超スピーディに実用化させる。
まさにシュンペーター流イノベーションです。
では、これに違和感を感じる日本人が真似できるのか?
私は無理だと思います。技術的な革新性がないビジネスにポンと100億円出してくれるVCなんてありませんからね。仮にあったとして、ユーザーにバカにされてしまいます。
しかし、逆に考えると、非シュンペーター流イノベーション、すなわち、コツコツと技術やアイデアを磨き続けるという型のイノベーションができる国というのは多くはありません。
歴代の日本のノーベル賞受賞者はみんな20年、30年孤独に耐えて失敗を繰り返しました。それでも退かずにやり続けました。日本では200年以上続いている会社が3000社以上もあり、世界一を誇ります。
「中国には100年以上の歴史を持つ企業が10社もない」と中国国内ではいわれている。
これぞ、日本的イノベーションとして世界に誇るべきだと思います。
iPhoneの中身に日本製が多いというのは有名な話だし、ノーベル賞の吉野先生のリチウムイオン電池もそうです。
いずれも、研究者や技術者が長い時間をかけて精度を上げてきたものです。
私自身、大学卒業後に某家電メーカーの中国工場に勤務していましたが、重要な部品の何割かは必ず日本製を採用していました。もちろん中国製の方が安いのですが、たまに爆発することがあるからです。工場というのはラインが止まるとアウトなので、爆発事件を早々に処理して、すぐにラインを再開するためには、日本製に頼るしかないのです。
また、いま弊社でも中国から日本企業を検索するサイトを運営していますが、我々運営側にも「こういう部品や技術を探している」等の問い合わせが毎日来ます。その部品は、もしかしたらドローンの機体に使われるのかもしれませんし、機体を製造する設備に使われるのかもしれません。
いずれにしろ、「日本製に頼るしかない」という分野はまだまだありますし、日本の未来は、そういう製品を磨き続けることだと思います。
シュンペーター流イノベーションに沸く中国の産業界が「欲しい」「売ってくれ」という製品や技術をどんどん開発していきましょう。