民泊新法は東京五輪へ向けたインバウンド対策か?
住宅宿泊事業法(民泊新法)が参議院で可決され成立しました、そして2018年1月に施行される予定です。“民泊”は住宅の空き部屋に有料で旅行者を泊める事業ですが、観光客の急増を背景に日本でも急速に存在感を高めています。そこでこの分野における実情と日中企業の動向にスポットを当ててみます。
目次
民泊新法成立の背景
日本政府観光局によると2016年の訪日外国人数は前年比21.8%増の約2,400万人で、過去最高を更新し2020年までの目標として4000万人を掲げています、しかし、これまでは旅館業法などの制約により民泊の許可をとるのが難しく、そのため多くの違法な営業がありました。厚生労働省が2016年10月から12月に実施した調査では無許可営業が30.6%、許可の有無が不明な物件が52.9%で、営業許可があったのはわずか16.5%でした。さらには近隣住民とのトラブル等の問題もあり、法の整備が急務となっていました。2020年の訪日客数が4,000万人に達すると仮定した場合、東京や大阪を中心に13都道府県で宿泊施設4万4,000室が不足すると推測されています。
民泊新法に注目する民泊仲介事業者
日本国内最大級の民泊情報サイトは民泊物件.comですが世界192カ国の33,000都市で80万以上の宿を提供しているAirbnbもこのたびの民泊新法成立に高い関心を抱いていました。また、以前から法整備に関する政府の委員会にも参加してきた上山康博氏が運営する、ユニークな社名の百戦錬磨も同様で違法民泊の撲滅と市場拡大に前向きな姿勢を見せており、百戦錬磨の子会社でこれもまたユニークな社名のとまれるは合法の民泊物件のみを扱う民泊仲介サイトSTAY JAPANを運営しています。他にも世界最大級の民泊予約サイト HomeAwayそして中国人観光客急増で大活躍の「中国人向けバケーションレンタルサイト」途家(Tujia)・日本途家(Tujia Japan)は優劣つけがたい存在です。
日本観光市場と日中国企業の動向
2015年以降、“上海豫園旅遊商城株式有限公司”が北海道のスキーリゾート“星野リゾート・トマム”を買収、そして中国最大の民間航空会社“春秋集団”が日系企業と提携して日本でホテルを開業するなど、中国企業が日本への進出が一つの流れになっており競争が激化していることがわかります。“同程旅遊”も日本のHISと合弁会社を設立して日本の旅行資源の統合と調達を手がけるという。そして“中信旅遊総公司”と日本のJTBグループが共同出資した“JTB新紀元国際旅行社”が北京で日本観光体験店舗を初オープンさせたり、中国企業が相次いで日本に乗り出すと同時に日本企業も動き出そうとしていることが注目されます。ソフトバンクグループはオンライン旅行会社を設立してインバウンド国際観光事業を手がけ、アリババ傘下の旅行サービスプラットフォーム“阿里旅行”と提携して主にフリーツアー客向けに主要観光ルート以外の観光サービスを提供するなど、このように日本の観光市場と中国企業の関わりは大きなものとなっております。
日本の大手鉄道資本が宿泊施設の増設に着手
2020東京五輪開催時には4万室以上の宿泊施設が不足することを見越したかのように京王電鉄が従来の特区制度を活用して民泊対応型マンションを2月に開業しました、さらに総額約200億円を投じて18年に京都の対応型“京王プレリアホテル”そしてその翌年には札幌市にも出店することを明らかにしています。また、西武ホールディングスは傘下のプリンスホテルの客室単価約1万5000円に対し、1万円前後に抑えた特化型ホテルを19年度に展開を始めるほか今後10年間に新ブランドを含めて100カ所の開業を宣言しています、そしてJR東日本は秋葉原駅の隣接地に196室の仮称“ホテルメッツ秋葉原”を着工し、現在43箇所で展開中の“メトロポリタンホテルズ”および“ホテルメッツ”を20年ごろまでには60箇所にして1万室を超えるホテルチェーンを目指すと言います。これらの動向は「中国人観光客ありき」か「東京五輪ありき」のどちらなのか、おそらく後者なのでしょうが、今や世界各国で中国人観光客の争奪戦が始まっているおり五輪以後の目論見は有るのでしょうか。
他国における民泊トラブル事例
“Airbnb”は、カリフォルニア州ビッグベアー近郊で「ゲストがアジア人だ」という理由で宿泊予約をキャンセルしたホストを同社のプラットフォームから永久追放したと報じています。人種差別に遭遇し涙を流すゲストの動画は急速に拡散され、大きな関心を集めたといいます。そのゲストは1カ月ほど前にAirbnbで予約しており、ホストに「もう2人の友だちが泊まれるかどうか」尋ねたらホストは「かまわない、追加料金を払うだけだ」と言ったといいます、そして車でそこへ向かい、もう一度ホストの女性に「友だち2人が泊まれるかどうか、現金で支払うべきか、いくらになるかもう一度教えてほしい」と尋ねたら「絶対無理、ビッグベアーで一番忙しい週末にそんなことができると思ってるなんて、頭がおかしいんじゃないの」そう言って宿泊予約をキャンセルにしたそうです。あっけにとられたゲストは「女性の言動をAirbnbに報告する」とホストに知らせたら「どうぞ、あなたが地球上で最後の人間だったとしても、私はあなたを泊めることはないでしょう」そして「こう言えば分かるでしょう、あなたはアジア人だから」と続けたそうです。これは個人的な人種差別の問題なのか定かではありませんが民泊であるがゆえの出来事なのでしょう、日本ではこのようなトラブルは起きて欲しくないものです。
民泊ホストに求められる配慮
前項で述べたトラブル事例は人種差別によるものですが、ゲストの生活習慣を考慮した受け入れということも忘れてはなりません。近年中国人観光客の増加に伴い「中国人のマナーが悪い」と言う評判が有りますが全てがそうなのでしょうか、日本人目線で視るからマナー違反であり、中国人目線で視ると当たり前ということも有るのです。中国の民泊仲介サイトは複数存在しており、代表的なものでも途家(Tujia)・自在客(Zizaike) ・住百家(Zhubajia)・大魚(Fishtrip)・小猪短租網(Xiaozhu)・蚂蟻短租(Mayi)・シートリップ(Ctrip)などが揚げられますがこれらのサイトなどと連携して事前に「日本のルール」が伝わるような仕組みが必要であり、また受け入れ後は逆に中国人の生活習慣を配慮した対応が求められます、このことは冒頭の民泊新法とは別に民間レベルで取り組まなければならないことではないでしょうか。
このたびの住宅宿泊事業法の成立・施行は2020東京五輪開催に向けた民泊新法のように思えるのは否めません、違法民泊の撲滅だけでなく先に述べたトラブル回避にも重点を置いた内容であって欲しいもので、本来ならば中国人観光客が急増した時点で策定されて然るべきでは無かったのか、日本経済に貢献してくれた中国人観光客への今後の恩恵はあるのでしょうか。
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