フェイスブックと中国の歩み寄りはあるか
中国共産党は市民らの政治活動の制限やパナマ文書のような反政府的コンテンツの拡散を防ぐため、2009年以来フェイスブックをブロックして来ました。しかしフェイスブックCEOのザッカーバーグ氏はネット人口が7億人に達する中国への進出を諦めていません、そんな中でニューヨークタイムズ紙のある報道が飛び込んできました。そこでフェイスブックと中国の関係にスポットを当ててみます。
フェイスブックが中国に密かに進出していた
驚くべき動きですが、フェイスブックが中国限定のアプリを作成・リリースしていたことがわかりました。仮名の会社名のもと同国のアプリストアで密かにローンチされていたのです。フェイスブックの中国アプリは「カラフルバルーン(彩色気球、Colorful Balloons)」という名称の写真共有サービスで、ニューヨークタイムズ紙がそのアプリに最初に気付き、それが実際にフェイスブックによって作られたものであることを確認したうえで報道しました。「カラフルバルーン」は事実上フェイスブックの中国限定版「Moments」で、「Moments」は2015年半ば頃に最初にリリースされた写真専用のスピンオフアプリです。フェイスブックはニューヨークタイムズ紙への声明の中で次のように述べています「私たちは長い間、中国に興味を持ち、いろいろな方法で同国を理解し、もっと学習しようと時間を費やしてきました」と。この人目を忍んだフェイスブックアプリは実際には5月に中国でリリースされていましたが、その出所が判明したのは8月11日のことでした。「カラフルバルーン」は何年にも渡るザッカーバーグ氏の注意深い外交を経たうえでローンチされ、同氏は中国本土を頻繁に訪れて2015年には Lu Wei(魯煒)氏のようなトップ級の役人にさえ面会しています。Lu Wei氏は同国インターネットの権威でフェイスブックや事実上その他すべての海外製ソーシャルメディアアプリを閉め出した張本人なのです。
ニューヨークタイムズ紙報道の概略
ニューヨークタイムズ紙による報道は「中国では、フェイスブックがステルスアプリで水をテストしている」と言うもので、主要な部分の概略は次のとおりです。
フェイスブックは中国でのカラフルバルーンと呼ばれる写真共有アプリをリリースした。これまでに報告されていないこのアプリは、フェイスブックのMomentsアプリのルック、機能、そして感触を共有しており、別の地元企業からリリースされ、ソーシャルネットワークが関連しているというヒントは一切ありません。現在、カラフルバルーンは、中国のユーザーが友人とデジタルで情報を共有したり、お気に入りのソーシャルメディアプラットフォームとやりとりする方法を知る方法をシリコンバレーの会社に提供します。中国のさまざまなインターネット規制当局がアプリの存在を知っていたかどうかは不明です。テーブル下のアプローチは、外国のハイテク企業に対する厳格な監督と管理を維持している中国政府にフェイスブックの新しい困難を引き起こす可能性がある。このアプリは、Appleのアプリストアのポストによると、「Youge Internet Technology」と呼ばれる会社によって中国でリリースされ、それは北京東部の住所に登録されていますが、建物の4階には、一連の手の込んだ小さなオフィスの中で、会社登録書に記載された部屋番号が見つかりませんでした。
ザッカーバーグ氏の中国外交
ザッカーバーグ氏は2016年3月20日に中国共産党の思想統制部門トップ劉雲山(リウ・ユンシャン)氏と会談し、フェイスブック解禁に向けてのアクションを起こしています。彼はスモッグが立ち込める北京をマスク無しでジョギングして中国への思いをアピールしたのです。劉雲山氏は「インターネットは人類共同の新しい家であり、ネット空間の運命共同体を構築することは国際社会の共同の責任だ」と述べ、先進技術を有するフェイスブックと中国のネット企業との交流促進に期待感を表明したとしています。ザッカーバーグ氏は「中国はインターネット大国であり世界でも重要な影響力がある」と持ち上げ、「われわれはよりよく中国を理解し、中国を紹介し、中国とともに歩み、インターネットを通じてよりよい世界を創造したい」と中国と寄り添う姿勢を強調したとのこと。またザッカーバーグ氏は同日に北京市内の釣魚台迎賓館で開かれた「中国発展ハイレベルフォーラム」に招かれてアリババ集団のジャック・マー会長と「イノベーション」をテーマに会談し、冒頭には「私はずっと中国の全人代と政治協商会議、そして第13次5カ年計画に注目してきた。きょう馬氏とイノベーションについて討論することができ、非常にうれしい」と中国語であいさつしたといいます。
ザッカーバーグ氏の動向への反響
ザッカーバーグ氏と中国指導部との“蜜月”を思わせる展開は、中国のネットユーザーにフェイスブック解禁への期待を抱かせているようです。ザッカーバーグ氏のフェイスブックへの投稿には世界中からさまざまなコメントが寄せられており、米国在住の華僑か華人とみられる男性は「ほとんどのネットユーザーが使えないフェイスブックを中国にもたらそうと努力してくれてありがとう。ドアが開くまでチャレンジを続けてくれ」と応援し、北京在住の女性も「マーク、北京にようこそ。中国でフェイスブックを使えるようにして。いつまでVPNを使ってログインしなきゃいけないの」と背中を押し、また一方で中国政府に対して人権問題を提起するように求める声も目立ちます。南アジア在住とみられる女性は「ビジネスと人権問題は決して同時に議論されることがないことは分かっているが、あなたはそれを最初に変えられる人物だ。次回は中国の指導者に、チベット人の苦境と文化の抹殺、消えた数千人の政治犯について聞いてみて」と訴えているとのことです。
ザッカーバーグ氏の思惑は如何に
ザッカーバーグ氏の劉雲山氏との会談で劉雲山氏は「フェイスブックは中国企業と経験を共有し、人々がインターネットの発展の恩恵を受けられるよう協力してほしい」と発言したといいいまが、しかし北京の市場調査会社マーブリッジコンサルティングのマーク・ナトキン氏は「中国の政策立案者は、確かに世界に打って出ることができる企業の支援にフォーカスしている。しかし、自国の市場を海外企業に譲る気は全く無い。特に政府が情報統制を進めたいソーシャルメディアを海外企業に開放することはあり得ない」と指摘しています。31歳のザッカーバーグ氏は厳しい状況の中で打開策を探っており、昨年「米中インターネット産業会議」のためシアトルを訪れた際には中国の習近平主席と面会して中国語で言葉を交わしたと言われています。ビジネスマンのザッカーバーグ氏は取引のツボも知っているでしょうから、フェイスブックへのアクセスを認めさせようと躍起になるのではなく、VRヘッドセット「オキュラスリフト」のような政府の検閲とは無関係の商品の進出を優先するかもしれません。いずれにせよどこかの時点でフェイスブックは中国市場へのアクセスと引き換えに、政府の検閲に協力するのかという難しい選択を迫られることになるのではないでしょうか。それは5年前に中国から撤退に追い込まれたグーグルと同じ立場に追い込まれることを意味します。
中国のネット検閲能力は世界一と言えるでしょう、だからこそ「発言の自由」とまで言わぬとも世界レベルでお互いの検閲に協力し合う形でインターネット社会が1つになれるように「金盾:グレートファイアーウォール」の性質も変えられないものでしょうか、ザッカーバーグ氏の働きがきっかけでその方向に動いてくれれば良いのですが、まだ先は見えません。
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