中国×イノベーション第4回 挙国体制による自動運転の研究開発
中国は今、空前の無人ブームである。無人運転、無人配送、無人ホテル、無人スーパー、無人コンビニ、無人レストラン等々。特に無人(自動)運転のニュースは、毎日のように発信され、無人技術で先行する中国のイメージ作りに貢献している。実際はどのように評価すればよいのだろうか。主力各社の研究開発の現状について検証してみよう。
自動運転・滴滴出行
2019年7月、トヨタ自動車は滴滴出行とライドシェア向け車両サービスの合弁会社を設立すると発表した。投資額は6億ドル。
滴滴はすでに配車アプリだけの会社ではない。2018年1月には、智慧交通戦略産品“滴滴交通大脳”を発表した。滴滴のもつ交通ビッグデータを生かし、都市の交通状況をAI診断するプラットフォームだ。すでに全国20都市に導入されている。その1つ山東省・済南市では344ヶ所の交通信号をスマート化、市民の通行時間を1日当たり3万時間節約した。
自動運転では、今年3月に上海滴滴沃芽科技を設立し、配車アプリと自動運転の新しい商業モデル構築を目指している。北米でも2017年3月、滴滴米国研究院を設立、2018年11月にはカナダ・トロントに滴滴実験室を設立している。活動範囲は世界的だ。
また、フォルクスワーゲンとも車両サービスの合弁会社を設立した。同社は10万台の車両を管理し、そのうち3分の2がフォルクス車で、最終目標は、やはり自動運転車の展開だ。トヨタは、その後を追いかけているとも言える。
滴滴は2012年の設立で、社歴はたった7年しかない。その若い会社が世界のスター軍団を集め、MaaS(Mobility as a Service=サービスとしての移動)の核として、モビリティ革命を主導している事実に驚かされる
自動運転・百度(バイドゥ)
中国は2017年11月、国家AIプロジェクトの1つ、自動運転プロジェクトに、検索エンジンを看板事業とするIT大手、百度の「Apollo計画」を選定した。
百度は2013年に自動運転の研究を開始した。2015年には、自動運転事業部を発足させ、“3年商用、5年量産”を目標に掲げた。実際に2018年7月、創業者の李彦哲は、金龍客車と合弁生産の小型バス“阿波龍”号を量産する、と宣言した。
Apollo計画は、国内外150社以上と提携している。金龍客車はその1社、厦門に本拠を置くバス会社である。しかし2018年11月、北京海淀公園でお披露目したときは、「ジョギングをしているのか?」などとそのスピードを揶揄された。それに2018年の試験走行距離は1万8093マイルにとどまり、ウェイモ(グーグル系)100万マイル以上とは桁が違う。
また幹部研究者たちが百度を離れ、新しいAIやロボット関連の会社を起業している。これらがApollo計画の側面支援になればいいが、そういう評価ではなく、苦戦の印象を与えている。
7月上旬、Apollo計画にトヨタが参加、8月上旬には、紅旗(国産の高級車ブランド)と量産車タクシー、RoboTaxiの生産で提携した、と伝えられた。これらが起爆剤となるかどうか。
5G試験区とIT巨頭
中国の電信3大キャリア(中国移動、中国電信、中国聯通)は、全国に24都市に5G試験区を持ち、そのうち北京、雄安、武漢、長沙、重慶、厦門、上海、済南8都市は5G自動運転試験区を兼ねている。5G基地局のコストは、今のところ4Gの100倍かかるが、通信3大キャリアと有力大都市、自動車、IT業界は、自動運転商業化へ向けての応用実験に、それだけの価値を見出している。
また、北京、上海、平遥、長春、重慶、深圳、無錫、杭州、長沙、肇慶、天津、広州の13都市で、合計105枚の路上テスト用のナンバープレートを交付した。最も多い北京市では、百度、蔚来汽車、北汽新能源、小馬智行、ベンツ、などに与えている。
深圳で交付されたのはテンセント、杭州ではアリババのIT2大巨頭だ。
テンセントは、2018年11月「騰訊車聯TAI智能システム」を発表した。また紅旗と共同開発の「紅旗H7」、吉利汽車と共同開発の「博瑞GE」の2車種の自動運転車もあわせて発表した。今年に入ってからは、「5G車路共同開源プラットフォーム」を立ち上げ、BMWとも自動運転で提携した。
アリババは、自社の人工知能ラボを生かし、自動運転の“道路測試”で自動運転に参入する。“車路協同システム”という。これは自動運転車を“上帝視角(神の目)”で監視するために設置された、智能感知ステーションが基本だ。アリババは国家AIプロジェクト「城市大脳」を委託され、モデル都市での交通管制で実績を上げている。
まとめ
日本では自動運転研究開発の主体は、自動車メーカーである。中国は、新しいモビリティ企業や、IT巨頭、地方政府が主役となり、自動車メーカーは、パーツのサプライヤーに見える。各地で進むスマートシティ建設のプロジェクトでは、都市交通のビッグデータを最優先で収集している。あらゆるステージで競争が進んでいる。自動運転の社会実装は間違いなく、中国の方が早そうだ。