Fintechと中国
目次
あらゆる産業がFintechによって再定義される!?
Fintech(フィンテック)が中国産業の中心になるといっても過言ではない時代が、もうそこまで来ているのかも知れません。Fintechとは、金融(Finance)と技術(Technology)を掛け合わせた造語で、金融でのITの活用を指します。中国ではIoT(Internet of Things)、ビッグデータ、⼈⼯知能(AI)などの技術を用い、⾰新的な⾦融サービスを提供する動きが強まっています。すでにタクシー配車とライドシェア(相乗り)サービスを展開する「滴滴出行」によって自動車の交通産業が再定義されようとしているほか、電子決済サービスの「支付宝(Alipay)」や「微信支付(WeChat pay)」は中国の買い物や決済のあり方に改新的な変化をもたらしたといってもよいのではないでしょうか。電子決済サービスが提供する領域は何でも決済できるだけに留まらず、融資、データ解析、利用者の信用力評価など多岐に渡っており、その利用用途は拡大しています。今回はあらゆる産業での利用が見込まれるFintech の中国事情についてみていきたいと思います。
電子決済の普及がネットと金融結ぶ
まず中国でFintechの利用が拡大した背景を振り返ってみます。Fintechの急成長を牽引したのは、インターネット通販とインスタントメッセージアプリの普及といって間違いないしょう。アリババグループが展開するインターネット通販サイト「淘宝(タオバオ)」や「天猫(Tmall)」の普及に伴い、アリババグループが提供する電子決済サービス「支付宝(Alipay)」が2004年頃からインターネット通販ユーザーに浸透しました。支付宝(Alipay)はその後、VisaやMasterCardを含む中国国内の金融機関と業務提携し、国内外に決済サービスを提供していったほか、中国企業のウェブショップ、オンラインゲーム、通信、ビジネスサービス、チケット販売、水道光熱費、実店舗などへも利用範囲を拡大。支付宝(Alipay)は、中国に電子決済サービスを根付かせたといっても過言ではないでしょう。電子決済サービスを中国で爆発的に普及させたのが、「微信支付(WeChat pay)」です。微信支付(WeChat pay)は、日本でいうLINEのような機能を持つスマートフォン(スマホ)向けチャットアプリ「微信(WeChat)」を展開する中国のIT企業、テンセントが提供する電子決済サービスで9億人が利用しており、支付宝(Alipay)同様さまざまな決済に利用されています。支付宝(Alipay)、微信支付(WeChat pay)がインターネットと決済、金融を結び付け、中国のFintech発展に大きく貢献したといえるでしょう。
支付宝が信用力評価、低利融資など優遇も
中国でのFintechの典型的な例は、支付宝(Alipay)、微信支付(WeChat pay)でも頻繁に利用されている飲食店や小売店、タクシーなどの電子決済です。スマホ1つあれば、どこでも何でも即座に決済できるため、その手軽さと簡便さから中国国内外で急速に普及が進んでいます。人工知能(AI)やビッグデータを用い、Fintechをユーザーの利便性向上に役立てようという取り組みをいち早く行っているのが、アリババグループや、アリババグループが提供する支付宝(Alipay)です。アリババグループは、スマホで撮影するとAIが通販サイト・淘宝(タオバオ)に出品されている商品群の中からユーザーのお目当ての商品を探し出す仕組みを導入しました。また、支付宝(Alipay)は決済だけでなく、少額貸付、保険、資産運⽤の提供などあらゆる⾦融サービスを提供しています。支付宝(Alipay)利用者は、支付宝(Alipay)アプリでこれら全ての機能にアクセス可能で、1つの ID で全サービスを利⽤できます。さらに支付宝(Alipay)は、利用実績を基に個人の信用力を評価するサービスを開始。スマホ画面で自分の信用力が算出され、評価が高いほど低利融資が受けられたり、ブランド品の分割手数料が無料になったりする優遇サービスが増える仕組みです。アリババグループは、決済情報のビッグデータと AI を組み合わせて与信管理コストを劇的に下げ、従来の⾦融機関では対象にできなかった個⼈や中⼩企業への資⾦供給も⾏っています。⼀⽅、テンセントの微信支付(WeChat pay)は、コミュニケーションツールとしての微信(WeChat)の強みを活かし、友⼈・親族間での送⾦サービスや店舗の宣伝・クーポン発⾏・決済までを⾏えるサービスなどを提供し、利用者数を伸ばしています。
Fintechでネットの高付加価値サービス実現へ
Fintechで最も注目されているといっていいのが、タクシー配車とライドシェア(相乗り)サービスで中国首位の滴滴出行です。滴滴出行は2012年に創業。米国のウーバーテクノロジーズの中国事業を買収し、新車販売台数で世界最大の中国市場を掌握しました。運転手登録数は1500万人、400都市でサービスを展開し、約4億人が利用する世界最大の配車サービスです。なぜ滴滴出行が注目されているかといいますと、あらゆるものがネットにつながるIoTの時代を見据え、IT企業各社がネットを通じた高付加価値サービスの提供を狙っているためです。滴滴出行は運転手や利用客の走行情報をビッグデータとして解析し、最短ルートの提供や道路混雑緩和につなげる計画のほか、中国が2025年の普及を計画している自動運転者を支えるインフラになるといわれています。滴滴出行は、テンセントやアリババグループが大株主であるだけでなく、日本のソフトバンクグループも投資ファンドを通じて出資しており、ソフトバンクグループは通信インフラ主体の事業構造からネットを通じたサービス提供へのシフトを目指しています。
Fintechは医療、食料、農業、生産の分野へも!?
支付宝(Alipay)、微信支付(WeChat pay)に代表されるように中国では、⾮⾦融事業者が顧客に対する電子決済サービスから⾦融分野へ参⼊する事例が⾒られ、圧倒的な情報処理能⼒により、さまざまなサービスを展開しています。今後は、これまでに挙げたサービスの例に留まらず IDを起点とするヘルス・ケアなどの多くの有望なサービス提供の可能性が期待されています。ソフトバンクグループ2017年3月期決算説明会によりますと、ソフトバンクグループは、インターネット業界のビジネスモデルは、(今までの)「人が作ったデータをプラットフォームを通じて、課金するモデル」から(これからは)「人が作るデータだけではなくて、あらゆるモノにインターネットが入って、モノが作るデータがプラットフォームを通じて活用される」とみており、自動車の交通産業が「滴滴出行」によって再定義されようとしているのと同じように、医療、食料、農業、生産の分野など、あらゆる産業が再定義されると予想しています。中国のFintechは電子決済サービス、配車サービスに留まらず、今後あらゆる産業に広がっていくことが見込まれます。インターネットを通じて世界中が繋がる今、中国国内のみならず日本で中国向けビジネスを展開する企業も中国とFintechについて考えなくてはならない時期にきているのではないでしょうか。
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