「2016年モバイル決済安全調査レポート」を読み解く
目次
モバイル決済安全調査レポートとは
2017年1月10日、中国でオンライン決済システムを運営する中国銀聯(China Union Pay)が「2016年モバイル決済安全調査レポート」を発表しました。このレポートは8年前から毎年発表されています。調査は、中国国内の銀行とネット金融の微博(Weibo/ウェイボー)・微信(WeChat)の公式アカウントページや公式サイト、公式アプリなどにアクセスした人を対象に行われました。このレポートはそこで得られた9万件もの回答をまとめたものです。この調査に回答を寄せたの人の大部分が「20代から40代の広東、浙江、上海、北京、江蘇、福建などの地域に居住する消費者」です。このレポートから、中国のモバイル決済利用の動向とモバイル決済に関わるセキュリティ問題を取り上げて解説してみたいと思います。
「剰女」は購買意欲が高いのか?
レポートによると、2016年もネットでの消費額は増加傾向を維持し、モバイル決済の利用者数も金額もともに増加しています。90%の人たちがモバイル決済を利用したことがあると回答していて、これは2015年の調査結果と比べると14%の増で、モバイル決済の浸透が急速に進んでいることがわかります。モバイル決済の利用者の95%が大卒以上の学歴を持つといわれていますが、その中でも特に目を引くのが高学歴のグループと女性のグループの消費金額の高さです。20~30歳の女性のうちでは約4割が、修士・博士の学歴を持つグループでは3人に1人が、それぞれネットショッピングでの月平均の消費額が5000元を上回ることが示されています。最近話題になったSK-Ⅱの広告も、「剰女」と呼ばれる婚期を逃したアラサー女性をターゲットにしていましたが、経済力だけでなく知識水準も兼ね備えたこの層が高い購買意欲を持っていることが、このレポートからも読み取ることができます。
クレジットカードとスマホの使い分け
家電製品の購入など高額の支払いにはカードを、コンビニでの買い物や外食産業での小額の支払いにはスマホのモバイル決済を使うというように、全体の約4割の人がカードとスマホの使い分けをしています。また、中国の消費者の間にクレジットを利用が増える傾向が見られます。クレジット払いを利用したことがある消費者の割合は全体の5割を超えています。中国でもクレジットの利用による「後払い」の習慣が広まりつつあるようです。クレジットカードの利用の中心は、80後(バーリンホウ)と呼ばれる1980年代生まれの世代と90後(ジョウリンホウ)と呼ばれる1990年代生まれの層だといわれています。80後(バーリンホウ)と90後(ジョウリンホウ)の若者たちは、それよりも上の世代とは異なり、貯蓄意識が低く消費意欲が高いため、自分の収入以上に消費する傾向があると言われています。中国の今後の経済発展の重要なファクターは個人消費を中心とする内需拡大であり、それを後押しするためにもクレジットカードなどの消費金融サービスの拡充が図られています。そのような背景からも、クレジットカードの利用率は今後も増加することが予想されます。
モバイル決済の利用に二極化
モバイル決済の利用に二極化が見られます。若い年齢層には、支付宝(Alipay/アリペイ)や微信支付(WeChat Pay)といった利便性を追求したシステムを好んで利用する傾向が見られます。その理由として、これらモバイル決済のアプリがいろいろなシーンで利用できる機能を備えていることが上げられます。これに対し、高学歴の30~40歳の層は安全性を重視して、銀聨(Union Pay)の運用する雲閃付(Cloud Quick Pass/クラウドクイックパス)を好んで利用する傾向があるようです。雲閃付(Cloud Quick Pass/クラウドクイックパス)はセキュリティ面で優れていると言われ、このグループには銀聨(Union Pay)のほかにも苹果支付(Apple Pay/アップルペイ)や華為支付(Huawei Pay/ファーウェイペイ)が含まれています。
中高年と男性はだまされやすい
レポートでは2016年もインターネット詐欺による被害が増えていることが示されています。調査対象のうち8割の人たちがSNSのアカウントを盗まれたことがあると回答し、4人に1人がインターネット詐欺の被害にあった経験があると回答しています。中国では2016年1月~8月までの期間に、全国で摘発されたインターネット詐欺被害の件数は7万1000件に上り、前年比で2.4倍と急増しました。当局ではインターネット詐欺の被害の拡大を防ぐため、2016年12月1日から銀行振込みに要する時間をこれまでの2時間から24時間に延長したり、支付宝(Alipay/アリペイ)と微信支付(WeChat Pay)の振込回数の制限を開始するなどの対策を講じています。このレポートで目立つのは、被害に遭ったと回答したグループの約半数が50歳以上の中高年層であったことです。また、女性よりも男性のほうが被害に遭いやすいことが明らかになっています。
セキュリティと法整備は今後のカギ
2017年1月には、支付宝(Alipay/アリペイ)に重大なセキュリティホールがあることが見つかりました。支付宝(Alipay/アリペイ)での消費傾向を知っている人であれば、本人でなくても、かなりの確率でパスワードの回復機能を利用するとパスワードの変更が可能であることがわかったのです。また、日本国内でも華為(Huawei /ファーウェイ)製品のバックドアの問題が話題になりました。モバイル決済が急速に普及しキャッシュレスが進行している一方でモバイル決済のセキュリティ技術はまだまだ成熟したものにはなっていません。中国はEコマースでもモバイル決済でも世界最大の市場であるため、これを狙う犯罪集団の数も自然と多くなります。モバイル決済のセキュリティ技術の確立と関連法制度の整備とは、モバイル決済の一層の普及に不可欠であり、それを巡る動向から今後も目が離せないでしょう。