中国×イノベーション シリーズ序章
1990年代~2000年代、改革開放政策の開花した中国を象徴する光景は、タワークレーンだった。中心部にはオフィスビル、周辺地区には高層マンションが続々と建設されていて、ふと顔を上げれば、視界に入るのは黄色のタワークレーンばかりだった。この間、辺鄙な農(魚)村にすぎなかった上海・浦東は、摩天楼の立ち並ぶ現代中国の象徴へ変貌した。2ケタを超える高度経済成長により、中国大都市の景観は一新した。
そして2008年のリーマンショック後、4兆元の緊急経済対策により不動産バブルがおこる。その一方で、目に見えないITイノベーションが始まっていた。当時、中国のインフラはまだ不十分だった。例えば、固定電話さえ普及の途上にあった。街にはにせ札が出回り、遠方の企業間における送金手段は、限られていた。詐欺事件は頻発し、市民の公共意識も大いに欠けていた。このころ中国ライターの仕事は、こうした“遅れた”中国を紹介することだった。
ところが中国はそれを逆手に取って成長につなげる。既得権者は少なく、これはプラスに働いた。純粋な技術のイノベーションにより、未開のIT荒地を、一気に開拓できたのである。IT空間に物理的制限がなかったことで、イノベーションは思いもよらぬスピードで拡散した。それらがはっきり可視化できるようになったのは、2014年以降である。ちょうど4Gの展開と連動している。
そして2016年ころには、中国消費者の生活スタイルは一変していた。日本へもさんざん紹介されたスマホ決済、配車アプリ、シェアサイクル、フードデリバリー、信用スコアなどである。これらは2019年になっても進化を続けている。
そして今、中国のITイノベーションはB2CからB2Bのステージへ広がっている。例えば越境Eコマースの60%以上はB2Bである。貿易制度の改革にも熱心だ。こうして中国ライターの仕事は、いつのまにか“進んだ”中国の紹介に、180度様変わりしていた。
現代中国では、この状態を“新経済”と呼ぶ。大衆による創業 万衆の革新、サプライサイドの構造改革等、政策の進行に伴い、AI、IOT、ビッグデータ等の技術進歩が加速、常に産業や業態、ビジネスモデルが刷新されている状態を指す。実際に、新事業は驚くべきスピードで、“社会実装”が進んでいった。出現当初は“野蛮な成長”に任せ、不都合が起こってから規制に着手する。こうした当局のスタンスも、大きなアシストになった。
本シリーズでは、2010年以降に起こった、中国の革命的イノベーションについて、さまざまな角度から検証していく。経済指標ではわからないところに光を当て、現在の活況をもたらした原因を突き止める。そして近未来の展開について、少しでも見通そうとする試みでもある。日本のIT生存空間はどこにあるか、についても考察していきたいと思う。