中国×イノベーション第10回 研究開発、大数居(ビッグデータ)総合試験区
中国の基礎科学技術は、これまで見てきた2014年以降、急激に起こった中国×イノベーションに、どう関わっているのだろうか。それを解明することは、今後の道標となるはずだ。具体的には、大数居(ビッグデータ)が産業のコメと言われる時代を前に、現在進行中のビッグデータ研究開発について迫ってみたい。
中国の科学技術水準
中国の科学技術水準を評価する上で、避けて通れないのは、宇宙開発の実績だ。2003年、有人宇宙飛行を、ソビエト連邦、米国に次いで、実現した。今年1月には「嫦娥4号」を月の裏側へ着陸させた。米国アポロ計画以来の有人月着陸計画を進行させている。
また昨年には18個のGPS衛星を打ち上げ、総数で米国を上回った。中国は宇宙分野での主導権を狙い、国家を挙げて米国に追い付こうとしている。
地上の情勢はどうだろうか。2009年には、計算速度毎秒1206兆回のスーパーコンピューター「天河1号」を完成しておる。以後、世界の計算速度競争において、トップグループの常連となった。このように総力戦の国家プロジェクトでは、現在いずれも世界の先端に位置している。
中国のビッグデータ産業
そして現在、ビッグデータ戦略を加速させている。モバイル、IOT、クラウドコンピューティングの発展により、中国のビッグデータ産業規模は、2017年には4800億元、前年比23%増だった。2018年には、6000億元を突破したとみられ、今年は8080億元が見込まれている。
その推進力として、以下の8大国家大数居(ビッグデータ)総合試験区を開設している。
内蒙古(西部)大数居基礎設施統発展類総合試験区
瀋陽市(東北)区域類総合試験区
京津冀(東部)跨区域類総合試験区
河南省(中部)区域示范類総合試験区
上海市(東部)区域示范類総合試験区
重慶市(西部)区域示范類総合試験区
貴州省(西部)国家級大数居総合試験区
珠江三角洲(東部)跨区域類総合試験区
その他、地方政府やIT企業を中心に設置された「大数居産業園」は、なんと全国に109ヶ所(2018年末)も存在する。
貴州省(西部)国家級大数居総合試験区
2019年5月、貴州省・貴陽市で「2019中国国際大数居産業博覧会」が開催された。内陸の貴州省は、かつて貧困地域の代名詞だった。なぜここで先端産業のイベントが開かれたのだろうか。それは5年前、新興のビッグデータ産業を誘致できたことがきっかけだった。貴州省は大規模なクラウドコンピューティング基地に必要な条件、温暖な気候、水資源、豊富な電力を備えていた。
これが2016年3月、中国初となる国家級大数居総合試験区の設立につながっていく。さらに中国初の大数居交易所(取引所)も設立した。現在全国12ヶ所にある交易所サービスの中心となっている。会員数は2000社を突破、取引されたデータ産品は4000を超えた。また中国初のビッグデータ地方法規を制定するとともに、行政データの開放を進めている。こうして貴州省の情報産業発展水準は、29位から15位へと上昇した。
変貌する貴州省
もう少し、具体的な成果を見てみよう。貴州省のデジタル経済の伸長率は、4年連続全国1位である。総合試験区には、アップル、マイクロソフト、インテルなどの世界企業、アリババ、ファーウエイ、テンセント、バイドゥ、などの国内リーディングカンパニーが参加し、総合試験区発展の原動力となった。貴州省の地元企業も大きな影響を受け、急成長した。「貨車幇」「白山雲」「朗瑪信息」「易鯨捷」「数聯銘品」などである。
その結果、データ収集、データ取引、データセキュリティーなどの、新業態、新モデルが続々と登場した。
生活も変わった。2015~2018年の貴州省ネット通販取引額は、年平均48.8%増加した。農村部には1万以上の通販サービスステーションが登場した。また、貴州政務服務網(行政サービスネット)の登録ユーザーは2370万、貴州省の常住人口の66%をカバーした。
結果的にビッグデータ産業は、地域おこしの核となった。かつての最貧困地区は、大変貌を遂げつつある。
まとめ
8つの総合試験区と109の産業園の存在には、まず数量で圧倒される。それでも必要な人材200万人に対し、60万人不足しているという認識だ。そのため2017~2019年の3年間、大学などの高等教育機関では、数居科学、大数居技術の学科を32カ所増やし、それぞれ250ヶ所、196ヶ所となった。
中国の科学技術部門は、宇宙開発や、スパコンの研究など、クローズドな環境で成果を上げるのは、得意技である。より広範囲にわたるビッグデータのようなプロジェクトには、もう1つの得意技を用いた。中央集権を保持しつつ、各地方に競争を促す分権方式である。高度経済成長の原動力となったパターンは、ここでも成果を挙げている。
大数居試験区や産業園が、本格化したのは2016年からである。2014年に花開いた、中国の生活イノベーションの後期にあたる。したがって産業への波及効果は、これから本格化していくはずだ。アウトプットされる成果物は、どれほどの規模になるのだろうか。想像するのは難しい。