中国と円滑にビジネスを行うために知っておきたい日本のイメージ、信用の蓄積により、環境は極めて良好?
中国人の日本イメージは、2012年9月の尖閣問題に対する暴動を最後として、好転していった。それ以来、反日活動は影を潜め、訪日客は激増する。しかし、それ以前から、決して悪いわけではなかった。とくにビジネスシーンにおいては、概ねうまくいっていたのである。その事実を検証することは、中国ビジネスへ新たに参入する際、きっと参考になるはずだ。
“誠実”な日本の対中投資
中国の地方政府は、海外投資データを、契約ベースと実行ベースの二本立てで発表している。日本企業は100万ドル投資して、工場を建設する契約を結べば、必ず実行した。計画と実行に差異は出ない。ところが世界的には、そうなっていない。投資プロジェクトを提出し、承認を受け、送金許可も得た。しかし、小さな事務所を開設しただけで、一向に動こうとはしない。そのうち市場環境の変化などの名目で、計画を縮小、果ては中止ということもしばしば起きる。例えばK国の投資案件では、このパターンが少なくない。事業機会を探るために、とりあえず机上の計画を出しただけだったのである。
地方政府は、投資実績を上げるため、ある程度容認していたとみられる。そんな中、有言実行の日本人は、確かな信用を得た。
名誉市民
中国の地方都市から「名誉市民」の称号を贈られた日本人がいる。元商社マンという人もいるが、大抵は当地の産業振興に貢献した技術者だ。例えば繊維産業なら、山東省のデニム産業、肌着産業、内蒙古自治区のカシミア産業などである。これらは日本人技術者の手によって、世界市場へ輸出できる産業へ飛躍した。日本人技術者にとって、技術を伝授し、人を育て、現地の産業を育てることは生きがいにも等しい。全力で指導をした結果、特に功績を認められた人が、名誉市民を贈られた。
そこまでいかなくても、繊維や食品、素材など従来型産業の近代化に貢献した日本人は多い。すでに彼らは引退し、代替わりした。ただし、足跡と記憶は間違いなく残っている。
“撤退”でも法令順守
また残念ながら、中国事業を清算する場合においても、やはり日本人は誠実だ。この場合、地方によって異なるが、直近2年間の平均月収X勤続年数、などの特別退職金規定がある。ほとんどの日本企業はこの規定を守り、ときに上乗せさえする。しかし、不幸にして労働争議に発展したケースもある。このようなときも、日本人社長は、最後まで交渉から逃げ出さず、従業員を説得しようと努める。中国人弁護士から「すでに違法性はない。もう打ち切れ。」とアドバイスを受けても、最後まで全力を尽くす。飛ぶ鳥跡を濁さず、の姿勢は徹底している。
ここでもK国企業のふるまいとは、大差がある。筆者は10年前、K国企業(従業員3000人規模)の夜逃げを目の当たりにした。工場正門前で、従業員が車をひっくり返して火を放ち、暴動寸前であった。結局地方政府が、未払い賃金の大部分を支給、遠方の出身者には、帰郷旅費まで負担した。
日本人のアドバンテージ
日本と中国は、政治情勢に関わらず、ビジネスを続けてきた。この間、日本人を騙そうと、手ぐすね引くような中国人は、大きく減少した。日本人と商売している、という実績の方が、はるかに宣伝効果、波及効果が大きいからだ。日本の取引企業はどこか?をチェックすれば、それだけで信用調査は可能だ。
こうした先人達によって築かれた信用の蓄積は、今も生きている。日本人ビジネスマンにとって、大きなアドバンテージである。新しいビジネスを手掛ける上でも、貴重な資本となるだろう。今後もこれを失わないような取引姿勢を、心掛けていきたい。それさえ守れば中国ビジネスは怖くない。