テンセントB2Bビジネスに本腰、専業ネット通販との合弁会社でアリババに初挑戦?
テンセントは昨年2018年11月のパートナー大会の席上、B2Bへのシフトを明確に表明した。同社はゲームからスタート、動画視聴、音楽などのエンタメ、QQ、Wechat などのSNSに強く、B2Cイメージの強い会社である。それがB2Bへ軸足をかたむけようという。その理由と最近の情勢について考察してみよう。
B2Bシフトへ組織変更
2018年1月、テンセントの株式時価総額は5000億ドルを超え、一時はFacebookをも上回った。その後、ゲーム部門で初の減収に見舞われ、増益率は鈍化した。株式市場の評価は厳しく、同年秋には1500億ドルが吹き飛んでいた。
創業者の馬化騰は、2017年末ごろから、顧客との関係を構築すれば継続性の高いB2Bビジネスの必要性を強調していたが、それを早急に実現しなければならない状況に追い込まれた。今後のB2Cビジネスに、もはや人口ボーナスはない。しかしB2Cで培ったインフラ(モバイル決済、クラウドコンピューティング)は十分有効に使えるはずだ。
そのため昨年9月に大規模な組織変更を行い、新たな6大事業群に再編した。
1 企業発展事業群
2 互動娯楽事業群
3 技術工程事業群
4 微信事業群
5 雲与智慧産業事業群(新規)
6 平台与内容事業群(新規)
鉄鋼ECサイトと提携
注目は5の雲与智慧産業事業群である。これは、クラウドコンピューティングの騰訊雲とAIの技術を生かし、小売業、教育、医療、保安、位置サービスなどの業界へ、ソリューションを提供するものだ。そして顧客企業と協力して、高度なデジタル産業チェーンを構築を目指す。
その第一弾として、テンセントは昨年9月、鉄鋼ネット通販の「找鋼網」と提携した。找鋼網は2012年設立の本格的B2Bサイトである。2015年には、中国を代表する有力投資機構から11億元の融資を受け、2018年には、提携鉄鋼工場115、ユーザー数は10万社、全国31省295都市をカバーしていた。商品の取引はもちろん、物流、倉庫保管、加工サービスから、産業金融事業まで行っている。探鋼網は、結果として鉄鋼業の生産調整を担う形となり、大きな成功を収めた。
找鋼網の成功は、その後「找塑料(プラスチック)網」「找玻璃(ガラス)網」「找油網」「找化工網」「找煤網」などが相次いで出現する契機となった。
テンセントとの提携は、新しいB2B産業ネット界の巨頭が誕生した、と評された。
合弁会社・胖猫雲(上海)科技公司
テンセントと找鋼網は合弁会社を設立した。胖猫雲(上海)科技公司といい、資本金は2,000万元、出資比率はテンセント40%、探鋼網60%である。同社では鉄鋼に限らず、全分野交易型SaaSプラットフォームを目指す。
テンセントには、QQの流量、企業アカウントなど、長年累積してきたビッグデータがある。企業サービスや開放型プラットフォームの経験もある。探鋼網には、企業を“集群”させる技術とB2Bネット通販の運営経験がある。これら2つを合わせ、SaaS上の産品が増加すれば、取引効率は大幅に上昇、商機、商圏は拡大するはずだ。
これはアリババの「1688」や「淘工廠」といったB2Bサイトと競合しそうである。
まとめ
胖猫雲科技公司は、今月で設立1年を迎えるが、最近のニュースはほとんどない。鉄鋼のように地味な部門は、もともと話題にはなりにくい。しかし、テンセント、アリババによるB2B争奪戦、などといったニュースでは、たびたび登場していて、それなりのインパクトは与えている。専門B2Bサイト側にしてみれば、アリババと組めば、総合B2Bサイトの一部として飲み込まれてしまう。その心配のないテンセントは極めて魅力的な提携相手である。他のB2Bサイトも、胖猫雲科技公司の成り行きを注視しているに違いない。