2019年を振り返る③インターネット界10大事件前編、馬雲996、ブラックホール、李佳琦ライブ事故
ネットメディアに、2019年ネット界10大事件が発表された。発生時間順に選ばれていて、影響力順のランキングではない。どのような事象が世間を騒がせたのだろうか。1年の中国ネット界を概観してみよう。
滴滴ドライバー遭難
3月の深夜 湖南省常徳市で配車アプリ滴滴出行のドライバーTが、乗客のY(19歳)に刺殺された。バスターミナル付近での下車時、後席に座っていたYは、Tの首や胸をナイフで何回も刺した。犯行後、Yは友人の勧めに従い、警察に出頭した。厭世観にさいなまれ、精神的に不安定だった。
これまでは滴滴ドライバーが殺人を犯すケースだった。2018年5月、河南省・鄭州市で女性キャビンアテンダントが、8月、浙江省・楽清市で20歳の若い女性が、ドライバーの手にかかり殺害された。このため滴滴は、彼女たちの利用した「順風車」という相乗りサービスを自粛していた。
滴滴はすぐに緊急対応チームを設置した。T家族を弔問し、フォローアップするスタッフを派遣した。これまでとは逆のケースだったが、社会的なインパクトは大きかった。
馬雲996
4月、ソフトウェア開発用プラットフォームGitHubに“996ICU”というプロジェクトがアップされた。996とは、朝9時出勤、夜9時退勤、1日勤務時間10時間以上、を週6日以内という、中華人民共和国労働法の法定残業規定である。ICUは、言うまでもなく集中治療室をさす。プログラマーは、996勤務を続け、やがでICUに入る。彼らの実態を自嘲気味に表現し、そこから抜け出したい、という意味を込めた。
これに対し、アリババのジャック・マー会長は、いかにも創業経営者らしい反応を示した。BATのような会社で996勤務ができるのは幸せ、と発言し炎上したのである。仕事と人生について、広範な論争を巻き起こし、何人も996を強制することはできない、ということで収束を見た。国家語言資源監測研究センター発表の、2019年十大ネット用語に選ばれた。
視覚中国ブラックホール事件
視覚中国とは、日本のピクスタ、123RFのような、写真等ビジュアルコンテンツ販売大手である。2000年設立、深圳市場の上場企業だ。同社は、日米欧の研究者が発表した「ブラックホール」写真を、所有権保時を装って売り出した。国旗や国の象徴も同様な手法だった。
国家版権局は素早く動き、違法行為を停止させた。30万元(470万円)の罰金を科すとともに、1ヶ月にわたりサイトを閉鎖した。
聯想(レノボ)中国撤退?
5月、聯想のCFOは、もし米国が高関税を課すなら、聯想は中国生産を撤収すると述べた。瞬く間に拡散し、聯想は批判の矢面に立たされた。
元は米国CNBCテレビのインタビュー記事で、その一節shift production away from chinaだけが増幅して伝わった。実際は、生産の一部を関税の影響を受けない国にシフトする能力はいつでもある、くらいのニュアンスで。これを中国ネット民が、必要以上にお祭り騒ぎにした。米中経済戦争の影響がうかがえる。
李佳琦ライブ事故
李佳琦は、最も有名な男性インフルエンサーである。化粧品に強く、口紅キングと異名をとるなど、絶大な人気を誇っている。10月、事故はいつもの製品紹介ライブ中に起こった。商品は、焦げ付き防止機能付きの鍋だった。しかし、揚げ物の過程で、卵が何度もこびりついてしまったのである。李の説明は、鍋に油が引いてなかった、というものだった。
いわゆるワイドショー的な大事件に発展し、1ヶ月以上もネット空間を騒がせた。
まとめ
視覚中国の知的所有権、聯想、李佳琦ライブ事故はいかにも現代中国らしいトピックだ。かつてなら、このような話題が共有されることはなかったろう。日本風になってきたのかも知れない。