世界消費者権利デー「3・15晩会」騒動の核心を読み解く
「中国一恐ろしい特番」と呼ばれる「3・15晩会」
3月15日は世界消費者権利デーで、中国ではこの日にあわせて、消費者の権利向上のために、違法な商法や安全性に問題のある商品を取り上げる特集番組が放送されることが恒例になっています。この番組は、最高人民法院や最高人民検察院、国家発展改革委員会、公安部、司法部などの政府機関や中国消費者協会などの団体とCCTV(中国中央電視台)とが共同で制作する特集番組で、「3・15晩会」と呼ばれています。番組の制作に主要な政府機関が加わっていることから権威が高い番組という評価があります。また、消費者の権利を侵害する企業を告発するというショッキングな内容が放送されることから、番組が消費者の行動に与える影響力も相当に大きなものになっています。番組内で告発される企業は中国企業だけではなく、過去にもアップルやニコン、マクドナルドなどの外国企業も取り上げられていて、「アップルをも炎上させ撃沈させた!」ということで「中国一恐ろしい特番」という異名をとっています。2017年3月15日に放送された特番はTVだけではなくモバイルでの視聴が可能になったので、番組放送後ネット上でも大きな話題になり、波紋を投げかけました。特に日本企業や日本の商品が取り上げられたことで日本国内でも話題になっています。今回の騒動から見えること、中国当局がメッセージとして伝えたかったことは何なのか徹底解説をしてみたいと思います。
放射能汚染地域で生産された商品?
2017年3月15日の番組の中で、「日本の放射能汚染地域で生産された食品が中国市場に流入し、中国国内1万3000以上のオンラインショップやスーパーなどで販売されている」と、無印良品、永旺(イオン)スーパー、カルビーなどの企業の名前が公表されました、例えば、カルビーのシリアル「フルーツグラノーラ」の製造元・本社所在地は東京都。工場所在地は栃木県で、東京都も栃木県も2011年の東日本大震災での福島原発事故以降、中国が食品輸入禁輸措置をとっている対象地域の10都県に含まれているというのです。無印良品が販売している日本製の「ノンカフェインとうもろこし茶」の場合は、日本語のラベルの上には中国語表記のシールが貼られていて、そこには生産国として「日本」と表記され、その下の日本語ラベルには「東京都豊島区」と表記されているのですが、番組内での表現では、「規制地域である東京都を隠すかのようにシールが貼られている。無印良品はこのように放射能で汚染された地域で生産された商品を販売している」というものだったようです。
販売者は消費者に賠償を!
この番組を受けて、翌日から京東(JD.com)や天猫(T-mall)などのプラットホームではこれらの商品の販売が一斉に取り止められ、これらの商品を検索してもヒットしないようになっています。またスーパーなどの店頭からもこれらの商品ばかりか日本製の食品の販売が行われなくなるという事態にまで発展しました。また番組のMCが「販売者は消費者に対して賠償を検討すべき」とコメントする場面も見られたようです。これを受けてネット上でも「日本は放射能汚染した食品を中国に輸出してとんでもない!」というような書き込みが多く見られました。CCTV(中国中央電視台)などの官製メディアが日本の商品に問題があると報道すると、それを受けてその商品が一斉に市場から姿を消し、「日本憎し」ということでネット世論も批判に傾く・・・というのが、よくあるパターンだったのですが、今回の騒動ではこれまでにはなかった注目すべき動きが見られました。
官製メディアに楯突く無謀な行動に?
今回の騒動で、日本国内では「中国のデマ情報に日本企業が槍玉に挙げられた」とか「こういったデマの告発は日本企業にとっては無視できない一大事」であるというような論調が多く見られますが、ことはそんなに単純ではなさそうです。注目すべきことは、槍玉に挙げられた無印良品側が反論をし、番組終了後も店頭から商品を撤去せず販売を続けました。中国の官製メディアの報道に対して中国国内で活動する一企業が堂々と反論をするということはこれまで見られなかった現象です。「番組の内容は誤解であり、東京都の住所は無印良品の親会社である良品計画の本社所在地であって生産地ではない。番組で批判対象となった食品と飲料の原産地は、正確には福井県と大阪府である」と説明し、輸入に際しては原産地証明を出して正規の税関検査を受け合格した商品であるということを、税関手続きの書類の画像を添付しながら自社のSNSの公式アカウントで訴えました。さらに上海出入国検査検疫局も「無印良品の輸入している商品は輸入禁輸措置をとっている対象地域で生産されたものではない」と発表したのでした。そして中国の一部のネットユーザーもこのような無印良品の行動を支持し、大手ネットメディアの中も無印良品の言い分を丁寧に報道するという、これまでにはあまり見られなかった官製メディアに楯突くような動きが起きたのです。無印良品が、冷静にしかもきちんと論証を示して反論する姿を「あっぱれ」と見る人たちも少なからずありました。無印良品側がこのような行動に出られたのは、無印良品が「小清新」とよばれる人たちを中心に中国でかなり支持されているということが背景にあったからだと言えます。同時に、メディアの報道やネット世論を鵜呑みにせず、真実が何であるかを自分の目で見極めようとする自覚的なリテラシーの高い消費層が中国にも現われ始めていることを示していると言えそうです。
番組の真の狙いは何だったのか?
次に2017年の「3・15晩会」が日本商品を取り上げたことの意味を考えてみたいと思います。今回の真のターゲットは果たして日本企業や日本商品だったのかどうかということは検討が必要です。「3・15晩会」でCCTV(中国中央電視台)が指摘しているのは、無印良品やカルビーの製造している商品が有害で健康に影響をもたらすものだということではなく、輸入の手続きや販売の仕方が中国の法律の視点からみて問題があるということでした。カルビーのフルーツグラノーラについても、カルビー側は番組で取り上げられた商品はカルビーとしては中国向けには輸出していないという声明を出しています。カルビー側によると、カルビーが正規の輸出ルートとしているのは「寧波井貝電子商務有限公司」1社であって、番組で取り上げられたカルビーの商品は、それ以外の日本の貿易会社や卸問屋から中国の量販店が輸入したもののようです。2017年の「3・15晩会」のテーマの一つが「Eコマース」であったということには注意が必要で、ややもすると放射能の問題ばかりに目が行きがちなのですが、個人輸入や非正規のルートで税関の検査を受けずに中国の市場に流通してしまっている商品こそが、中国当局が頭を痛めている問題の核心であって、その対策に本格的に乗り出すのだということこそが、この番組に込められたメッセージであったとみてよいのではないでしょうか。