中国×イノベーション第9回 複合化するショート動画アプリがネット界の焦点に
中国動画視聴アプリとその視聴傾向は、激変を重ねている。複合アプリ化が進み、新規参入も盛んなため、状況を正確に把握するのは難しい。確かなことは“短視頻”と呼ばれるショートビデオのシェア型アプリが勢力を増していることだ。
第44回「中国互聯網絡(インターネット)発展状況統計報告」によれば、中国のネットユーザーは8億5400万人、そのうち動画視聴ユーザーは7億5900万人、短視頻のユーザーは6億4800万人である。短視頻ユーザーは全体の75.8%、4人中3人は利用している。そしてネット利用時間における構成比は、2018年第3四半期の9.9%から2019年第2四半期には13.5%に上昇し、SNSの30.6%に次ぐ2位に浮上した。代表的アプリの「TikTok」と「快手」から見ていこう。
TikTok(抖音)
2019年5月のアクティブユーザー数3億5731万人、前月比10.93%増。ニュースサイト「今日頭条」のバイトダンス社が運営している。
リップシンクの15秒ビデオ共有というスタイルは、もともと「Musical.ly」創業者・陽陸育のアイデアである。Musical.lyは2014年にスタートし、デイリーアクティブユーザー数は全世界で2000万人、北米600万人にまで成長する。2017年11月、バイトダンスが争奪戦に勝ち、10億ドルで買収に成功した。やがて自社で展開していたTikTokと統合させ、2018年以降急成長し、世界的大ヒットアプリとなった。
中国版は60秒動画が投稿可能で、これには別の使い方がある。公的機関が、国民へのアピールに積極的に利用しているのだ。最も多くのファンを抱えているのは、吉林省四平市公安局の「四平警事」である。警察活動の紹介ビデオだ。2位、中国軍視網、3位、中国軍網、4位、北京SWATと、武装組織が並んでいる。広報活動に力を入れているのが分かる。
またバイトダンスは「西瓜視頻」、アクティブユーザー数1億1954万人、前月比12.55%増と「火山小視頻」、同1億428万人、前月比9.46%増、の2つも運営し、短視頻アプリの1位、3位、4位を占めている。
快 手
5月のアクティブユーザー数2億3703万人、前月比6.28%増。2011年に設立、2012年、短視頻スタイルへシフトした。2017年3月、テンセント創業者・馬化騰は、快手に「温度を感じ」自ら3億5000万ドルの巨額投資を決断した。2018年6月、中国初の弾幕視頻(コメント機能付き)動画サイト、AcFun(通称A站)を買収し、ラインナップの厚みを増す。
快手はTikTokよりさらに短く、基本は7秒である。最後まで見てもらえる可能性は高いが、表現は制約される。中国版インスタグラムとも呼ばれ、写真との合成も多い。
この快手も57秒まで延長が可能だ。やはり公的機関が積極利用している。ファン数のトップは、中国長安網(中共中央政法委員会)で、449の“作品”をアップし、7500万の、いいね、をもらっている。2位は、共青団中央、3位は、交通警察在線と、こちらもお堅い組織の発信が多い。
テンセントは、ゲーム、音楽配信、動画視聴など他のエンタメでは主導権を保持している。しかし、成長部門の短視頻では、快手と「微視」しかなく、バイトダンスに水をあけられた。Musical.lyをさらわれたこともあり、癪に触ってたまらない。複数の訴訟を起こすなど、バイトダンスに対してはナーバスそのものだ。
商売と合体した新しい娯楽の誕生?
短視頻のショートビデオは、国民的SNS・We Chatや、ネット通販に張り付けることができる。We ChatはただのSNSではなく、個人間の商売に幅広く利用されるとともに、企業宣伝にも欠かせない。モバイル決済We Chat Payと一体化していて、スモールビジネスにとって実に便利なプラットフォームだ。そしてネット通販でも投稿ビデオサイト化へ向かっている。KOLたちが化粧品の商品宣伝に利用するアプリの調査によれば、
小紅書…24.1%、Tik Tok…18.3% Wechat…14.8%、淘宝直播…13.0%
微 博…11.9%、B 站…7.8%、快 手…7.5%
となっていた。小紅書と淘宝直播はネット通販、Wechatと微博はSNS、TikTokと快手は短視頻、B站は動画視聴と、出自はまちまちだが、みな同じような販促活動の舞台となっている。
最も利用されている「小紅書」は、女性からの信頼が厚い。使い方は様々だ。例えば京都旅行をする中国人女性は、全員このアプリを開いているはずだ。ほとんどすべての観光地について、女性による最新の情報が投稿されている。その厚みはガイドブックの比ではない。
最近では、TikTokと快手もネット通販に乗り出した。もう何が何だかわからない。音楽、文学、ゲーム、娯楽と商売が協同して、新しい娯楽を生み出している、という解説もある。
方向感のないレッドオーシャンから抜け出すのはどこか。先は見通せないが、とにかくこの7つのアプリからは、当面目を離せない。