新型肺炎① 次々と対策を打ち出すIT巨頭、2003年SARS事件の教訓生かす?
新型肺炎の患者がSARSを超えた。感染症の専門家によれば、ウイルスの目的は、宿主を破滅させることではなく、共存を図ることにある。つまり次第に毒性は薄らぐという。突然変異を繰り返さない限り、やがて収束する。ただし、それがいつになるかはわからない。インフルエンザとの違いは、ワクチンの有無で、これこそ恐怖の最大原因だろう。強力な防疫体制の維持は、経済活動に大きな負担を強いる。その影響について、まず企業の新型肺炎への取組みから見てみよう。
大企業の支援
大企業を中心に武漢市への寄贈が相次いでいる。1月29日現在で770社、117億7000万元(1840億円)に上る。1億元(15億6000万円)以上は30社、1000万元~1億元は260社、100万元~1000万元が482社だった。トップ10は
1位 通用技術集団 10億3000万元(機械設備製造)
2位 アリババ 10億元 (IT)
3位 運鴻集団 3億1000万元(太陽光発電)
4位 テンセント 3億元 (IT)
5位 バイドゥ 3億元 (IT)
6位 恒 大 2億元 (不動産)
7位 バイトダンス 2億元 (IT)
8位 招商銀行 2億元 (金融)
9位 美団点評 2億元 (IT)
10位 吉 利 2億元 (自動車)
10位 方大集団 2億元 (ハイテク、材料等)
テンセントは社内プロジェクト立ち上げ
IT巨頭の行動は詳しく紹介されている。
テンセントは3億元(47億円)を拠出し、24日「第一期新型肺炎疫情防控基金」を設立した。武漢地区最前線の防疫活動に活用する。マスク、消毒液、防護グラスの購入、第一線に立つ医療人員のサポート等である。
28日には社を上げて、技術者30人を選抜、内部プロジェクトを立ち上げた。騰訊健康、騰訊医典(医療データベース)、騰訊覓影(医療映像=国家AIプロジェクト)などグループの医療関連人員から構成する。ミニプログラムをオープンプラットフォーム化し、公共医療サービスの設計と周知、防疫製品の設計等に活用してもらう。
アリババは便乗値上げ禁止
アリババは25日、10億元(156億円)を拠出し「医療物資供給専項基金」を設立した。国内外から直接医療物資を購入し、武漢及び湖北省の病院へ送付する。また通販プラットフォーム「淘宝」の出店者に対し、医療関連物資の便乗値上げを禁止した。逆にマスクへは助成金を出すこととした。さらに支付宝アプリでは、患者数、死者数、治癒数などリアルタイム情報を提供している。
バイドゥ(百度)は26日、3億元を拠出し「疫情及び公共衛生安全攻堅専項基金」を設立した。新型肺炎等、新疾病の薬物選定、研究開発や、防疫活動に利用する。また公共衛生安全情報の普及や啓蒙に努める。また百度アプリに“抗撃肺炎”チャネルを、百度地図アプリには“発熱問診地図”を設置した。
まとめ
2003年のSARS事件は、IT業界発展の契機になった。アリババは従業員が罹患し、杭州の事務所ビルは閉鎖された。創業以来の危機に瀕した。その一方、正常取引のできなくなった企業が、アリババのプラットフォームに商機を見出した。この時期アリババの会員は毎日3500名増加し、1日の収入は1000万元に上った。そしてこの年5月「淘宝網」を、10月に「支付宝」をスタートさせている。
またテンセントは、終息後の2003年9月、QQの登録ユーザーが2億を突破した。情報を求める人が殺到し、後のSNS部門発展の契機となった。
IT巨頭には17年前の記憶と教訓があった。今回は矢継ぎ早に施策を打ち出せている。新たな中国ネット界発展の契機は見い出せるだろうか。そのチャンスをつかむのは、無名のスタートアップかも知れない。