アリババ解剖第四回、ニューリテールと生体認証、アリババの将来
2016年アリババ開発者大会の席上、ジャック・マー会長は、新零售(ニューリテール)の概念を提出しました。OMO(Online Merges Offline)小売融合とも呼ばれます。中国のネット辞書には、オンラインサービスと実体店での体験、及び現代物流を高度に融合させた新しい小売モデル、とあります。アリババの目指す小売業の最終形とは、どのようなものか見ていきましょう。最後にその将来にも触れたいとも思います。
「盒馬鮮生」のチェーン展開
アリババOMOの象徴は、2016年1月に出店した「盒馬鮮生」上海金橋店です。見た目は普通の食品スーパーですが、天井にハンガーシステムが通っています。オンライン注文は、店員の持つ端末に反映されます。その商品を集荷した袋が、ハンギングされ出荷場へ向うのです。それを3キロ圏内を30分以内で宅配し、決済はアリペイで行います。金橋店は成功を収め、アリババは猛スピードでチェーン化していきます。2019年1月には、何と109店舗に達しました。
ライバルのテンセント系企業や、独立系企業も次々と参入し、現在この分野は、百花繚乱の賑わいです。日系コンビニの、セブンイレブン、ファミリーマートさえ導入せざるを得ませんでした。日本のネットスーパーや生協の宅配とは、思想が異なります。日本は定時性を、中国では即時性を重視しているからです。
オフライン店との連携
またアリババは、業績の低迷した総合スーパーや食品スーパー、ホームセンターに出資しています。銀泰商業、三江購物、百聯集団、新華都、大潤発、居然之家などです。そしてこれら全社で、システムをOMO型へ改変しています。大潤発とは共同で、「盒馬鮮生」のミニ版「小盒馬」業態を開発しました。380店舗以上の大型店を運営する大潤発の仕入れノウハウを活用することにしたのです。ホームセンター居然之家でも、“天地のひっくり返る”ような思い切った大改装を進めています。
こうして直営の「盒馬鮮生」に傘下の実体店企業を合わせ、中国全土をOMOシステムで覆いつくす計画です。来店しても、家にいても変わらない。どこにいてもほぼ同時に同じサービスを受けられる。それも生鮮食品、料理やホットコーヒーから衣料品、家庭用品まで何もかも。これがアリババOMOが目指す最終地点と見られます。
さらにアリババは、これらOMOサービスの基幹インフラとなったモバイル決済、アリペイさえ時代遅れにしようとしています。それは生体認証決済の導入です。
生体認証決済へ
マー会長は、QRコード決済は、やがて虹彩認証に取って変わられる、と宣言しています。せっかく自ら構築し、トップシェアを誇るアリペイの否定です。アリババのクラウドにさえつながっていれば、もはやスマホも何もいらない時代を作る、という意味にとれます。
そのためアリババは、すでに実店舗で認証実験を進めています。2017年9月、杭州万象城のケンタッキー店が第一号です。画面上の「支付宝刷臉付」を選択すると、機械が識別を始めます。1~2秒で認証します。しかし、今はスマホのアリペイ画面と連動させての操作です。顔認証のみ、というわけではありません。
顔認証技術による決済は2013年、フィンランドのスタートアップ企業Uniqul社が先陣を切りました。現在は、中国のセンスタイム(商湯科技)社が脚光を浴びています。2017年12月、ホンダと共同開発契約を結び、話題となりました。アリババは2018年4月、同社に出資するとともに、5月には共同で「香港人工智能実験室」を設立しました。新しい成果を取り入れるつもりです。ただし、まだ最終型は見えません。
こうした将来ビジョンを次々に提出し、グループを発展させてきたのは、マー会長にほかなりません。
マー会長後のアリババは?
そのマー会長は、昨年9月、引退を発表しました。しかし、それを嘆き、惜しむ声はあまり聞こえません。彼がじっとしているはずはない。慈善事業や教育方面で、中国を代表して活躍してくれるだろう、という確信めいたものがあります。
中国人は、日本人ほど他人に対する関心や、英雄に対する思い入れは強くありません。そうした風土を、突き抜けた人気と慕われようです。
初の大学入試で、数学0点を取った有名なエピソードは、優等生ではない普通の人々を勇気付けます。ソフトバンク孫正義社長を5分で魅了し、習近平・浙江省党委書記(在任2002~2007年)とも親密な関係を築きます。上にも下にも強いオールラウンダーです。
彼のいないアリババは、どうなるのでしょうか?マー会長の目標はデジタル・チャイナの建設を通じて、世界に貢献することでした。そのため考えられる限りの新概念を提出しました。その面では、達成感を得たのかもしれません。彼自身は、1つ1つの事業にこだわりませんが、後継者たちにとっては、事業を存続させることこそ第一義となります。やがて発信力は衰え、保守的な経営スタイルに変質せざるを得ないと思います。今後のアリババの動きは、こうした観点からも見る必要がありそうです。