劇的に変わりつつある中国人の生活、日本の影響で成熟化へ向かう?
この30年、中国の経済成長は歴史的な高水準にあった。鄧小平の“発展是硬道理”というスローガンは正しかった。本当に、明日は今日より豊かな時代だったのである。商売のタネは、いくらでもあったが、そのチャンスをつかむため、中国人の日常には、常在戦場の緊張感があった。そのため、中国人=手ごわいタフニゴシエータ―という印象は強かった。その後、高度成長から安定成長へと移る中で、デジタルイノベーション(2014年~)を経験し、生活は飛躍的に便利となった。そのせいか、今は多少疲れを癒し、小休止しているようにも見える。今後の中国社会はどうなっていくのだろうか。
ジェネレーションギャップの拡大
中国では目に見えて世代間ギャップが拡大した。80后(1980年代生まれ)が、理解に苦しむ新しい世代、いわば新人類を表す最初の言葉だった。その後90后、95后、00后と次々に登場してきた。目まぐるしい変化を反映し、5年刻みに早まっている。最も太い境界線は、80后とそれ以前ではなく、80后と90后の間にある。
貧しさを知らずに育った90后以降は、まるで違っている。2018年1月の「美食報告」というレポートに、外食なら正統中国料理を選ぶ、という人の年代別比率が載っている。それによれば、70后 92%、80后 68% 90后 19%と90后から急降下している。90后が最も好むのは、ケーキ屋など甘味店、25%であった。
80后以前の持っていた、上昇へ向けた意欲むき出しの生き方を、90后以降の世代は、カッコ悪い、と感じるようだ。この感覚自体が新しい。前世代は第三者の目など気にせず、常にガムシャラだった。正統中国料理店で、乾杯を繰り返し、相手を持ち上げ倒しての人脈作りは、その典型的情景だった。90后以降は、それらを忌避しているのである。
ITイノベーションで生活激変
2014年以降、中国では、革命的なITイノベーションが起こる。スマホの普及、モバイル決済とシェアエコノミー、フードデリバリー、ニューリテールなどである。中国人の生活は劇的に変わった。
フードデリバリーは、外食産業の10%以上を占めるまで成長した。ニューリテールは、アリババのジャック・マー会長の提出した概念で、オンラインとオフラインの融合を目指している。同社の展開する新型スーパー「盒馬生鮮」はその典型で、アプリで注文し、指定区域内なら30分で配達される。さらに店舗を持たない「毎日優鮮」なども勢力を拡大、ウォルマートなど従来スーパーも追随している。利用者は90后以降が中心である。彼らはスマホをタップするだけで、何もかも自宅にとどく、まったく新しい時代に生きているのである。
インフルエンサーとしての日本
「佛系」という言葉が流行した。2018年には国家語言資源監測研究センターの“10大ネット用語”に選ばれた。2014年の日本の雑誌ノンノに掲載された「仏男子を攻略せよ」に由来している。2017年12月以降、ネット界を席巻、文化現象となった。佛系青年、佛系職員、佛系恋人、佛系生活など、さまざまに使われた。少し解説を見てみよう。
佛系青年…内心の平和を追求し、淡々として、特に達成すべき目的を持たない。
佛系職員…仕事への熱情はない。前途に目指すべき道はなく、帰途に振り返る道もない。
佛系恋人…互いに強く求め合うことはなく、分かれるときも、いつものバイバイ、と変わらない。
佛系生活…奪わず、争わずの平和な個人生活。
激しい自己主張の飛び交う、これまでの中国とは真逆である。ACG(Animation,Comic,Game)と同じく、日本の文化的影響と理解してよいだろう。それ以前には、宅男、御宅族(オタク)という言葉も入っている。外国語表示はhikikomoriである。こうして日中の若者世代は、文化的ギャップが縮小し、互いに理解しやすいフラットな関係に向かっている。
日本文化の力が、何かと騒々しい中国社会を、落ち着かせたとすれば、大変意義深いことかも知れない。中国社会は成熟化へ向かい、日本はそのサポートをつとめているようだ。