中国モバイル(China Mobile)も越境ECに参入 爆買い商品を販売?
通販サイト「日本館」を開設
2016年9月26日から中国の通信キャリア最大手の中国モバイル(China Mobile)が運営するインターネット通販サイト「和生活」内にNTTドコモは日本製商品を扱う専門ページ「日本館」を開設し、中国顧客を対象にしたサービスを開始しました。中国モバイル(China Mobile)は携帯契約者数が8億3,704万人(2016年6月末時点)という世界最大級のモバイルキャリアです。この「日本館」では、中国の消費者に好まれる日本の化粧品、日用品、伝統工芸品やなどを日本企業が調達します。サイトを覗いてみると「爆買い」の人気商品だった豆乳イソフラボンフェイスパックや化粧水、酵素サプリなどが並んでいます。日本館は立ち上げ当初は、商品の発送は日本国内から行うことが予定されています。しかし中国では、政府主導でインターネット通販サイトを通じた国際的な電子商取引の発展を目指し、越境EC総合試験区(保税区)が設けられているので、将来的にはドコモもこの制度を活用して試験区内に保税倉庫を設けて商品の発送を行うと発表しています。保税倉庫から発送で配送期間の短縮や配送料の低減も実現されます。
このタイミングでの提携
中国モバイル(China Mobile)は2009年からネットモールを展開していたのですが、これまでは天猫(天猫(T-mall)や京東(CD.com)に押され、ぱっとしない存在でした。京東(CD.com)は既に2015年に「京東全球構」に日本製品専門店「日本館」をオープンし、中国の消費者に向けて日本製品の販売を開始しています。中国モバイル(China Mobile)が何を目指しているのか?天猫(T-mall)や京東(CD.com)の二大勢力に対抗しようとしているのか?非常に興味のあるところだと思います。ここで、ひとつ付け加えておきたいのは、中国モバイル、ドコモ、韓国の大手通信キャリアのKTの3者による業務提携を2022年1月まで延長することが合意されたという発表が、直後の2016年10月14日になされたということです。
「電線工事屋」からの脱却
これまでも越境ECの分野で中国企業と海外の有名ブランドとの大型提携はありましたが、注目すべきは、今回の提携が中国最大の通信キャリアと日本で既にに不動の地位を築いているドコモという通信キャリアとで行われたということです。この提携では、「日本館」の運営は、商品の選定から価格設定、物流、通関、カスタマーサービスなどの主要な役割はドコモ側が担当し、中国モバイル(China Mobile)はプラットフォームの提供と技術サポートだけを行うという役割分担です。日本や韓国の通信キャリアは既に従来からの収益源に加え、デジタルコンテンツ配信やモバイル決済など高付加価値化事業展開で収益構造を進化させてきていますが、中国の通信キャリアはこの分野では立ち遅れていて、相変わらず、「電線工事屋」状態なのです。そこで、日韓との提携によってマーケティングの手法を学び、カスタマーサービスや物流のノウハウを学び取ることは、将来に向けて収益構造を変え、これまでのいわゆる「親方五星紅旗」的な体質からの脱却にも役立つのではないでしょうか。まさに今回の提携のポイントの一つはそこにあるのだと思われます。
双方の思惑は?
ドコモは、通信インフラと7,000万人の顧客基盤を活かし、新たな事業領域の創出を中長期的な成長戦略の柱に据えています。ドコモは既にECビジネスにおいて一定の実績とノウハウを蓄積した企業です。中期目標にスマートライフ領域の成長を掲げ、様々なパートナーとのコラボレーションにより、日本国内だけではなく新たな付加価値を創造するグローバルな「協創」の取り組みを志向しています。それに対し中国モバイル(China Mobile)はこの分野においてはまだまだヨチヨチ歩きの赤ちゃんのようなものです。中国でも4Gが普及があり、それを生かして従来からの通話料などを収益の柱とするビジネスモデルからの脱却が求められています。中国モバイル(China Mobile)には自身の持つ膨大な顧客基盤を生かしたビジネス展開の可能性を探ろうという思惑があります。急激に成長し続ける中国の越境ECの市場のパイの取り分を得ることはもちろんですが、ドコモとの提携によってノウハウや経営手法を学び取り、新たな収益構造を構築し、来るべき5Gの時代において、東北アジア市場をも見据えた発展を目指しているのでしょう。
越境ECにも変革が必要
中国の越境ECは今まさに旬の話題です。越境ECビジネス分野でも、天猫(T-mall)や京東(CD.com)などが先行し、一定のノウハウの蓄積がなされているのは事実です。しかし、商品が売れるかどうかの鍵は、いかに正確にターゲットにフォーカスできるかにあり、通信キャリアである中国モバイル(China Mobile)は顧客のビッグデータやアクセス状況を把握できる立場にあるので、そこは他のECプラットホームにはない強みと言えます。顧客の行動パターンなどのデータを中国モバイル(China Mobile)が握っているのです。今回特に注目すべきところは、日本館が日本企業が調達する日本製品に特化したという点です。中国の消費者も偽ブランドにはもうウンザリしています。また、中国国内の物流体制の弱さにも辟易としているのが実情です。「保税倉庫」を利用したドコモ側による一貫した物流サービスがどのような評価を受けるのかも注目すべき点でしょう。越境ECが成功するかどうかは、プラットーホームが重要なのではなく、そこで販売される商品とサービスへの信頼感がポイントです。これらがその越境ECのイメージを形成し、消費者を引き付け、購買意欲に結びついていくのです。
壮大な市場調査?
今回の中国モバイル(China Mobile)とドコモとの提携はあくまでも未来志向のスタート点であって、取引額や出店数の伸びという尺度でその成否を測ることは的外れです。中国モバイル(China Mobile)はもっと遠くの、東北アジアという市場をも視野に入れているはずです。日本館が取り扱うのは「美容」、「健康」、「ベビー用品」、「和を意識した工芸品」などわずか4カテゴリーです。日本館のオープンについて大々的なプロモーションは中国国内では行われておらず、日本経済新聞(中国語版)の報道で始めて知ったという人がほとんどのようです。この「日本館」に中国の成熟しつつある消費者がどのような反応を示すのか?また、これまでになかった消費者体験をドコモが提供できるかどうかも未知数です。これらは中国モバイル(China Mobile)にとってもドコモにとってもひとつの大きなテストです。どのような結果が出てくるかはわかりません。しかし、この日本館のに対する中国人消費者の反応は、あの「爆買い」の本質がなんであったのかをもう一度冷静に分析して、中国の消費者が本当に求めているものが何なのか?われわれ日本人が今後どのようなマーケティング戦略を立てるかを考える上での大事なヒントを示してくれるのではないでしょうか。