スターバックスはどのように会員システムを成長させたのか?
ある朝、筆者がカリキュラム開発の先生と話し合いをする為に中国でスターバックスに行ったところ、店員のお兄さんがこう言いました。
「2ドリンクご購入頂くのなら、1ドリンク無料になるサービスを受けられますよ。会員カードにご加入頂くことが前提ですが…カードの手続きが終わったら1ドリンクの購入でもう1ドリンク無料になります。しかも、3回もそのチャンスがありますよ」。
「そのカードはお幾らですか?」筆者は期待満々で尋ねました。
「98元です。コーヒー3杯分にも満たない価格ですよ。中に含まれる3枚の”1ドリンク購入で、1ドリンク無料サービス”券で、もう元を取ることが出来ます。更に早朝ドリンク無料チケット1枚とサイズの無料グレードアップチケット1枚も…」
お兄さんの説明が終わるのも待たず、筆者は財布を取り出し、カードの手続きを始めました。こうして筆者は1分とかからず、スターバックスの忠順なユーザーとなったのでした。
業界にはこういった言い回しがあります。
“5回の購買で忠順に”
これは基本的に、ユーザーが5回以上購買し、1ケ月ほどの時間をかけてホワイトユーザーから”忠順な”ユーザーに変わることを意味しています。
しかし、この日の午前、スターバックスは1分にも満たない時間で筆者をホワイトユーザーから”忠順な”ユーザーに変えたのです。このことが理由で、筆者はスターバックスの会員勧誘の方法に強い興味を持つようになりました。
あなたは、プロダクトに喜びを持ってお金を払ってくれて、また簡単には失われないユーザーを獲得したいと思いませんか?もしあなたがそうお考えなら、この記事はあなたのお役に立てる筈です。
目次
なぜスターバックス会員カードセールスの成功率は高いのか?
メンバーズカードと言うと、中国の地下鉄の入口でトレーニングジムの会員勧誘をしている人たちを思い出します。「トレーニングプールですよ、見て行って下さい」と、誰彼構わず声を掛けるのです。このやり方では、言わずもがな成功率は低く、また人々の反感さえ買ってしまうかもしれません。
なぜ、筆者が喜んでスターバックスの会員カードを購入したかと言うと、それほど高価ではない、ということ以外に下記の点がいちばん重要だったと思うのです。
それは、”ユーザーが最も特殊権益を必要としている時に勧める”ということです。
スターバックスの店員さんは通常、コーヒーを2杯注文する人に声をかけ、勧誘しています。なぜならコーヒーを2杯頼む人が最も、”1ドリンク購入で1ドリンク無料サービス”の特殊権益を必要としているからです。
1杯しかコーヒーを注文しない人に、会員カードを勧めることは殆どありません。
最近は、電子ビジネス業界でも、必死でメンバーズ獲得の広告を打ち出しているようです。
“京东(JD.com)”メンバーは、送料無料・ポイント2倍。”小紅書(RED)”は、送料込み・独占価格。”網易考拉(kaola.com)”は、配送券・免税券・優待券の価格に突出。”網易厳選(you.163.com)”はポイント2倍と毎月の無料テスト使用の特権あり……
しかしながら、この業界もメンバーズ獲得においては、とても理知的な方法を取っています。
通常、あなたが注文を確定してレジに進む時に、”メンバーズご優待”の画面が出て来て、あなたを会員の道へと誘うのです。
スターバックスはどのようにユーザーの購買意欲を掻き立てるのか?
会員システムの本質は、ユーザーに目標を持って購買させることです。
惰性的な購買から、使命感ある購買へ。
これには、会員階級システムを設定することが鍵となります。
スターバックスの会員には3ステップの階級があります。
スターバックスの会員になる前に、あなたはスターバックス リワードカードを購入する必要があります。価格は98元で、このカードを購入後に初級会員となります。(スターバックスのキーホルダー付きは108元、スターバックスが不定期で出すブランドとのコラボカードは299元)
初級会員とはシルバースター会員のことで、そこからコーヒーを飲みまくると、グリーンスター会員にアップグレードすることが出来ます。また更に飲んで飲んで飲みまくると、ゴールドスター会員へと上り詰めることが出来るのです。
もうお分かりでしょう、スターバックスの会員階級システムとはユーザーにコーヒーを買わせる、飲ませるためにあるものなのです。
なぜ、こんなにも多くのユーザーが従順にスターバックスでコーヒーを買うのでしょうか。実は、これがスターバックスの会員グレード設定の優れた技巧なのですが、昇級はとても簡単であるとユーザーに思わせることが重要なのです。
例えば、”1ドリンク購入で1ドリンク無料サービス”券を3枚とも使い終わり、4杯目のコーヒーを注文しようとしている時に、店員のお兄さんがあなたにこう言うのです。
「もしあと1ドリンクご購入頂いたら、グリーンスター会員に昇級出来ますよ。そうすれば無料コーヒー引換券が1枚貰えます」。
シルバースター会員からグリーンスター会員へは、250元使うだけで昇級出来るのです。グリーンスターからゴールドスター会員に昇級するのは、たったの1,250元です。また、ユーザーが感じるグレードアップの難易度を下げるために、スターバックスは”リトルスター”作戦を打ち出しました。
“リトルスター”とは、一種のポイント積み立て方式のことで、このポイントで現金の代わりに金額消費することが出来ます。50元の消費で1つのスターが加算されます。
スターバックスのアプリで、あなたがいま幾つのスターを保有しているかチェックすることが出来るので、可視化された昇級進度によって、あなたはまた足繁くスターバックスへ通うことになるのです。
そして、あなたが相応数のスターを集め終わった時、次のグレードの特権に通ずる鍵を開けることが出来るのです。スターバックスのグレード特権は、いたってシンプルでありながら誘惑に満ちています。あなたは、いつも値段以上の満足感を得ることが出来るからです。
なぜスターバックス会員は値段以上の満足感を与えることが出来るのか?
「お客様は”サイズの無料グレードアップ”券を1枚お持ちですので、ショートサイズの基本料金に3元足すだけで、グランデサイズのコーヒーにチェンジ出来ますよ」。
スターバックスの店員さんは、会員のあなたがお会計をする時に、いつもこんな風に不意をついて驚きと喜びをもたらしてくれます。優れた会員特権とは、ユーザーに値段以上の満足感を与えるものであり、また売手にとても迅速に儲けさせるものでもあります。
スターバックスの財務報告によると、コーヒー業界全体では景気が良いとは言えない状況の中でスピーディーな成長を遂げており、会員の消費額は非会員の3倍にも及ぶというのです。
こうした業績を上げることが出来たのも、スターバックスの会員システムの特権のお陰と言えるでしょう。
1ドリンク購入で、1ドリンク無料券
厳格に言うと、この特権はあなたが98元を払って買った特権です。最大のトリックは、あなたは、必ずはじめにお金を出して1ドリンクを購入した後に、やっと無料のもう1ドリンクが受け取れるという点にあります。
何もやる事が無かったとしても、一人で来て2杯飲んで行く人は稀でしょう。殆どの場合、誰かと一緒に来て飲みますよね。つまり、あなたは潜在的なユーザーをスターバックスに連れて来てあげていることになるのです。
早朝の無料コーヒー券
もしこのチケットがあれば、午前11時前に入店すると無料でトールサイズのコーヒーが貰えます。すなわち、スターバックスはこのチケットを利用して、わたしたちにフードなどドリンク以外の商品を朝ご飯に購入してもらいたいという狙いがあるのです。
サイズの無料グレードアップ券
このチケットがあれば、トールサイズをグランデサイズに、グランデサイズをベンティサイズに、無料でグレードアップ出来ます。これは、会員の満足度を急速に高めることの出来る神チケットなのです。
誕生日月に1ドリンクプレゼント
誕生日の当日、あなたは各方面から祝福の言葉を受けるでしょう。スターバックスから贈られる1ドリンクも、とても嬉しいプレゼントではないでしょうか。
3ドリンク購入で1ドリンク無料チケット
このチケットがあれば3ドリンクの購入金額で、4ドリンクを受け取ることができます。1ドリンク無料になるとは言え、1度のオーダーで100元近い金額を消費することになります。
年一回の無料ドリンクチケット
カード取得日(年一回)に1ドリンクプレゼント
10回の消費で1ドリンク無料
消費金額に関わらず、10回の消費で1ドリンクが無料になります。このために筆者は、コーヒーが飲みたくなった時、ついスターバックスに足が向いてしまうのです。
専属ゴールドカード
消費者専属の名前が刻まれたゴールドカードです。このカードを甘く見てはいけません。待遇の違いを通して、人に優越感と特別感を与えることが出来るのです。
スターバックスが与えるこれらの特権は、会員グレードによって違います。スターバックスの会員には全部で3つのグレードがあり、それぞれ違う特権が与えられています。
●シルバー会員の特権は、主に新会員の消費習慣を育てるためのものです。
●グリーン会員の特権は、主に会員の消費総額を高めるためのものです。
●ゴールド会員の特権は、主に会員の消費回数を増やす為のものです。
スターバックスは、会員の売上高を非会員の3倍に押し上げました。特権の提供により、会員の消費金額と消費回数を増やす以外に、これから述べる「どのように会員の消費頻度を高めるか」と言う点が重要になってきます。
どのように会員の消費頻度を高めるのか?
アカウントの中に優待券があったとしても、会員がそれを使用しなければ何の意味もありません。あなたに急いで消費させるために、スターバックスはまた次の一手を打っています。
すべての優待券に使用期限を設けているのです。誕生日とカード取得日年一回の優待チケットが当月しか使用出来ない以外に、他の優待チケットには90日間の使用期限が設けられています。
これでユーザーの緊迫感を煽り、見えないカタチでユーザーの消費周期を縮めて、会員の購買頻度をまた一歩高めるのです。
更に凄いのは、会員は終身制ではなく、会員加入手続きをした2年目には、あなたのアカウント内にあるすべてのスターとすべての優待券は取り消され、会員グレードも一段格下げされてしまうのです。
この時、あなたには2つの選択肢があります。消費を続けてグレードを上げるか、直接シルバーカードを購入するかで、多くの人は後者を選択します。
なぜこのようなことが出来るのでしょうか?ユーザーが怒るのが怖くないのでしょうか? なぜなら、これ以前に会員は様々なサービスを受けることに習慣付けられている、簡単に言うとクセになってしまっているのです。そして二年目に、「申し訳ありませんが、あなたのグレードは下がりましたので、これまでのサービスを受けることが出来なくなりました」と告げられるのです。
わたしたちは、会員としてのサービスを受けることに慣れきってしまっているのに、突然会員でなくなることに耐えられる筈がありません。このため、筆者たちはカードを買い直すか、消費して更に高いグレードの会員になるしかないのです。
まとめ
これまであなたは、忠順なユーザーをゆっくりと育てて来ることが出来たかも知れませんが、いまのビジネス競争は激烈です。あなたがまだ悠々とユーザーを育てていたら、簡単に他に持って行かれてしまうかもしれません。
もし、高消費を望めて、なおかつ他に流れにくい忠順なユーザーを獲得したければ、この記事で取り上げたスターバックスの会員システムに倣うことを考えてみてはいかがでしょうか?以下の4項目が鍵になります。
1)初級会員から費用を取ることと、同時に消費習慣を高める特権を用意すること
2) 会員グレードアップのハードルは高過ぎないことと、ビジネスの核心的目標にリンクしていること
3)ハイグレード会員には、客単価を上げるため、また消費回数を上げるための特権を用意すること
4) ユーザーが最も特殊権益を必要としているときに会員勧誘することで、成功率を高める
素晴らしい会員システムとは、ユーザーに値段以上の満足感を与えるものであり、なおかつ自分が大いに稼ぐことが出来るものなのです。
[原文 : http://www.opp2.com/85295.html]
[newspicks url=”https://newspicks.com/news/3103844″]