フェイクニュースとバズマーケティング
2016年の米国大統領選挙でドナルド・トランプ候補が勝利を遂げたあと、のフェイクニュースの流入と拡散へのFacebookの一連の対応が大きな話題となっています。日本や欧米では、SNSの本質とは?とか、ジャーナリズムの使命とは?とか、フェイクニュースが民主主義を破壊するか?といった突っ込んだ議論がなされています。真実とは一体何か?というような哲学的なことまでも議論されているようです。中国でこの問題がどのように捉えられているかというと、「Facebookは米大統領選によって危機に直面した」とか「半数以上のアメリカ人がフェイクニュースに困惑している 」というように、今回の騒動はあくまでも「対岸の火事」というスタンスを崩していません。「Facebookの株価がどうなるか?」という表層的なことに焦点を当てて、ジャーナリズムや民主主義という議論には立ち入らず、火の粉が自分のほうに飛んでこないように注意を払っているようにも窺えます。Facebookのデマやフェイクニュースの問題とジャーナリズムや民主主義とを結びつけるのは、今の中国では越えてはならない一線なのかもしれません。
デマ情報とそれを打ち消すためのデマ?
中国のネット上にフェイクニュースやデマが存在しないかというと、そういうわけでもありません。毎年、新年には「昨年のネット十大捏造ニュース」といった特集がネット上にも発表されています。2016年も、万里の長城のどこかが崩れたとか、北京市内のある場所で甚大な冠水被害が出たというような情報はデマであったと認定されています。当局もネットにデマを書き込むと最高で懲役7年とする刑法改正を行ったり、「サイバー安全法」を制定し、捏造情報を管理する法整備を行っていて、デマ情報を流した不心得者に対して拘留処分を行ったというようなことも伝えられています。その一方で、当局が意図的に膨大な情報を流している状況もあり、1年間に約5億件近い「作為的なソーシャルメディア投稿」を当局が行っているという調査報告もあるようです。不都合な情報からネットユーザーの目を逸らすために、類似の情報を意図的に大量に発信したりする手法も取られているという指摘がされています。中国の消費者はネット上にデマや捏造が溢れ返っていることをしっかり認識しているのです。
中国の消費者は本当に口コミを信じている?
一般に、中国の消費者は「物事を簡単に信じない」という国民性があり、信じるのは口コミだけなので、微博(Weibo/ウェイボー)や微信(WeChat)などのソーシャルメディアが購買に与える影響が大きく、バズマーケティングが有効であると言われています。しかし現実には、その「口コミ」の中にも多くのデマや捏造が紛れ込んでしまっています。ある情報が真実かどうかを自力でチェックすることは一般の消費者にとってはかなりハードルの高いことです。日々のさまざまな出来事も、その現場に居合わせなければ「実際に起きていることかどうか」は実はわからないわけで、報道されていることやネット上の情報はとりあえず事実だと信じるしかない面があります。まして、日本の情報となるとなおさらです。微博(Weibo/ウェイボー)のユーザーにはファクトチェックをすることなく、他人の書き込みをコピペし転送することを楽しんでいる層もあります。人間の心理として、どうしても自分にとって都合のいい情報や嗜好に合った情報を信じたり拡散する傾向があるでしょう。中国の消費者は口コミ情報のみを信じる、だからそれに合わせたマーケティングをというロジック、これは口コミだから信じるのではなく、とりあえずは信じておくしかないのでは?氾濫する口コミ情報の中から、いかに選別が行われ、どのような口コミが消費行動に結びつき、どのような口コミはスルーされるのか?そこがポイントになってくるでしょう。