中国のIT業界の覇者?!アリババグループを徹底解説します
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ECで世界へ「開けゴマ!」 鉄塔から下着、化粧品まで190ヵ国に
「アリババ」と聞くと、10年ほど前までは「開けゴマ!」で有名な物語「アリババと40人の盗賊」でしたが、今や国際的なインターネットユーザーであれば真っ先に思い浮かぶのはアリババグループ(阿里巴巴集団、本社・中国杭州)ではないでしょうか。
アリババグループはEC(インターネット商取引)を武器に創業からわずか13年で流通総額4850億ドル(2016年3月期)、日本円で約52兆円と流通世界一のウォールマート(米国)の4821億ドル(2016年1月期)を追い越すなど、急激な成長を遂げ、世界的に有名な企業になりました。ECを通じ鉄塔、天然ガスから下着、化粧品まであらゆる商品の企業、個人間の取引を190ヵ国でサポートし、売上げ拡大を続けています。
中国ネット通販、シェア8割
アリババグループの大きな特徴のひとつは、インターネット通販事業で中国国内シェアの8割以上を握っているということです。インターネット総売上げの約9割が中国国内です。急速に普及したスマートフォンをはじめとするモバイル端末に対応したことが流通額を押し上げています。インターネット固定回線の整備が整っていない地方でもモバイル端末を通じてインターネット商取引が活発に行われるようになり流通総額の6割以上をモバイルユーザーが占めるまでになっています。
世界でアリババグループのサービスを頻繁に利用するアクティブユーザー数は、4億2300万人に上り会員数は毎年増え続けています。主にインターネット通販サイトである、CtoC(消費者間の取引)のタオバオ(淘宝網)、BtoC(企業と消費者の取引)のTmall(天猫)、BtoB(企業間取引)のアリババドットコムを運営するほか、決済サービス、クラウド・コンピューティングなどのサービスも提供しています。売上げ構成比の約8割をタオバオとTmallが占め、中国国内の一般消費者の間などで広く浸透しています。
8億アイテムを割安で タオバオ
タオバオの特徴は、“見つからない宝物はない、売れない宝物はない”という意味を持つほど、商品数が豊富なことです。会員数は5億人以上、商品数は8億点以上と中国はもちろんアジア最大規模のショッピングサイトで、アクセス数が多いサイトとして世界トップ20にも入っています。個人が無料で出店でき、主に日用雑貨、ファッション、携帯電話、化粧品、スポーツ用品、アクセサリー、書籍、ノートパソコン、家電などを販売しています。
CtoCの取引が主体で、圧倒的な数の個人ユーザーが出店しており品数が多く価格が安いのも特徴のひとつです。しかし、信用力のない個人同士の取引のため、欠陥品による「安かろう悪かろう」への不安を防ぐには検品を誠実に行う代行業者の選定など購入の際にはある程度の対策が必要のようです。
タオバオでの主な収入源は広告料収入で、サイトの広告料はページの上段にいけばいくほど高くなる仕組みとなっています。広告を掲載せずにSNSや他のウェブサイトからタオバオのストアへ誘導する個人バイヤーも存在します。中国国内では、化粧品や医薬品など高品質な日本製品を求める動きが多く、日本人向けの代行出店業者やタオバオでの販売の攻略法を掲載するサイトも登場しています。
ユニクロなど7万ブランド Tmall
Tmallは高品質、高付加価値な商品を求める中国の消費者向けに設立された中国で最もアクセス数の多い総合オンラインショッピングモールです。BtoCの取引サイトで約5万の出店者が登録し、中国国内外の約7万のブランドを取り扱っています。
Tmallの特徴は、ブランドメーカーがTmall上でオフィシャルオンラインショップを運営しているため、CtoCの取引に比べ「安全・安心」ということです。企業出店において高い出店基準を設け、偽物や非正規品を排除することでタオバオとの差別化を図っています。
出店に際しては、企業は保証金、販売金額に応じた手数料などを支払うため、商品価格はタオバオに比べ割高となっています。Tmallでは、洋服、家電、書籍、家具、美容などの取扱い製品別にモールが設けられており、ユニクロ、アディダス、P&G、ユニリーバ、ナイキ、リーバイスなど多くのブランドメーカーがオンラインショップを運営しています。
中小企業の世界進出支援 アリババドットコム
アリババドットコムは、1999年の創業時に立ち上げられたBtoB取引をサポートするサイトです。創業者のジャック・マー氏は、大企業を鯨、中小企業をエビに例え、「鯨をあきらめてエビをとる」と、独自の情報ルートや巨額の広告費を投じることができる大企業に対し、それらを持たない中小企業でも世界の市場と繋がり貿易の機会を得られるサイトを創設しました。
国際サイト、中国国内取引のための中国サイト、小口取引が可能な卸売サイト・アリエクスプレスの3つのサイトを軸に世界のBtoB取引をサポートし、国際サイトは190ヵ国約3670万ユーザー、中国サイトは約7770万ユーザーに利用されています。
10年余で時価総額25兆円超に 創業者ジャック・マーとは?
10年余りでアリババグループを時価総額25兆円超に育て上げたアリババグループの創業者ジャック・マー氏を「もともと落ちこぼれの人だった」というと驚く人も多いでしょう。
ジャック・マー氏は1964年9月中国杭州生まれで、中学・高校とも成績は悪く、大学進学は断念し三輪車自動車の運転手となりました。学業は苦手でしたが、小さい頃から英語には興味を持ち、朝早くから近所のホテルへ行っては外国人観光客のガイドをしながら英語を独自に習得したそうです。「人生」という本に出会い、再び大学進学を目指し、1988年杭州師範学院(現杭州師範大学)英語科卒業。同年から1995年まで大学で英語、国際貿易の講師を勤めました。
転機は、1995年に訪れます。米国で出会ったインターネットをヒントに中国初のビジネス情報発信サイトを開設。その後、1999年にアリババドットコム、2003年にタオバオ、2008年にTmallを開設するなどし、アリババグループを時価総額25兆円超の企業に育て上げました。
流通総額2020年に100兆円へ 東南アジアなど海外視野に
中国国内インターネット通販の圧倒的なシェアを強みに好業績が続くアリババグループですが、ここに来てタオバオ、Tmallの会員数の伸び悩みなど課題も浮き彫りになっています。そんな中、2020年に流通総額約100兆円(6兆元)、2036年に会員数20億人を目標に、中国農村部、東南アジアの国々などのモバイルユーザー会員獲得を目指しています。今年4月にシンガポールのインターネット通販企業ラザダへ10億ドル(約1000億円)を投資するなど、海外市場開拓に力を入れていることがわかります。
今後、アリババグループは中国国内はもちろん世界各国へも販路拡大を目指していきます。しかし、新たなインターネット通販ユーザーを取り込んでいったこれまでとは環境が異なり、中国国内で急成長している直販型インターネット通販大手・京東集団(ジンドン)のほか、世界にはインターネットオークション最大手・eBay(米国)やアマゾン(米国)など越境ECを手掛ける強力なライバルが乱立しています。
ライバル企業の乱立、SNS内での販売などインターネット通販環境の多様化といった多くの競争の中で成熟したインターネットユーザーとアリババグループはこれからは向き合っていかなければなりません。アリババグループの幹部には中国武術小説の登場人物の名前のニックネームがついており、今の時代でどんなビジネスを起こすか、偉人たちの立場に自分達をおいて考えるそうです。インターネット通販の戦国時代を征し、“中国の覇者”から“世界の覇者”になれるのか、アリババグループの“戦術”が今試されています。