アリババ解剖第三回 阿里雲と達磨院
アリババがネット通販事業を爆発的に拡大し、アント・フィナンシャルが金融事業を次々に成功へ導いた秘密は、どこにあるのでしょうか。それを探るため、今回の第三回では、クラウドコンピューティング子会社「阿里雲」と、研究機関「達磨院」について考察します。アリババは、技術と研究開発をどのように捉えているのでしょうか。
阿里雲の企業価値
その前に、中国のユニコーン企業(企業価値10億ドル以上の非上場ベンチャー)ランキングを見てみましょう。科学技術部のユニコーン企業164社リストです。それには、
第1位、アント・フィナンシャル(ネット金融) 企業価値750億ドル
第4位、阿里雲(クラウドコンピューティング) 同 390億ドル
第8位、菜鳥網絡(物流) 同 200憶ドル
とアリババ系企業が3社もランクインしています。阿里雲の企業価値390億ドルは、日本の上場企業に当てはめると、4兆3400億円のセブン&アイ(21位)、4兆2690億円のキャノン(22位)辺りに相当します(2月上旬)。大した数字です。
阿里雲の歴史
その阿里雲は2009年9月に設立されました。アリババグループにおいて、クラウドとビッグデータ戦略を遂行する位置付けです。以下年表を見ていきましょう。
2011年7月、阿里雲公式サイトを開設、クラウドサービスの対外提供を開始。
2012年6月、サッカー欧州選手権で24会場からのオンライン生放送をサポート。
2013年6月、アリババ“余額宝”を発売、その基幹システムを阿里雲に移転。
2014年5月、阿里雲、香港でサービス提供を開始。中国クラウド初の海外進出。
2015年1月、中国鉄道総公司の“12306予約発券システム”で年間のピーク、春節予約の75%を阿里雲が扱う。
同年6月、アリババとアント・フィナンシャル、ビッグデータの保存と“計算任務”を阿里雲へ移転。
同年11月、独身の日セール(双11)売上912億元、毎秒14万件の注文を阿里雲が処理。
2016年4月、韓国SK集団と提携、韓国市場へ進出。
同年5月、日本ソフトバンクと提携、日本市場へ進出。
同年10月、杭州市と「城市大脳」計画で提携。
同年11月、欧州、中東、日本、オセアニア地区へ進出、世界をカバー。
2017年11月、「城市大脳」国家AIプロジェクトに入選。
国家AIプロジェクト「城市大脳」
グループを技術面で支えたのは阿里雲でした。2016年以降は世界進出を果たし、今ではアマゾン、マイクロソフト、グーグル、と同列に世界大手4社と呼ばれるまでになりました。
ここでは国家AIプロジェクト「城市大脳」について少し掘り下げてみましょう。
これは地方行政活動のすべてをデジタル化してしまおうという野心的な計画です。モデル都市はアリババの本拠地、杭州市です。2018年8月までに、すでに296項目の課題を実現しています。モバイル決済は、全市コンビニの95%、タクシーの98%をカバーし、スマート医療の受診者は延べ7000万人に達しました。
そして大脳のカバーする区域は420平方キロと、これまでの28倍に拡大しました。1300の交通信号、4500の監視カメラが生体反応を感知し、交通をさばく200名の警官を「城市大脳」が指揮しています。ここで阿里雲は「城市大脳」は2.0段階へ昇級した、と宣言します。
すでに1.0の段階で、交通信号の最適化、緊急車両の優先通行、最も複雑なジャンクションの50%スピードアップ通行などを実現しました。それがついに警官まで指揮するようになったのです。
達摩院(DAMO Academy)
2017年の開発者大会において、アリババは「達磨院」を設立し、今後3年間で研究開発に1000億元を投入する、と発表しました。ジャック・マー会長は「未来の技術は利潤をもたらす。市場を獲得するにはイノベーションしかない。」とその主旨を述べています。この達摩院は3つの部分から構成されています。
1 世界的な自主研究センター。米国、欧州に達磨院を建設。北京、杭州、シンガポール、イスラエル、サンマテオ、ベルビュー、モスクワ等に実験室を開設。
2 共同研究。アリババのビッグデータを生かした産学連携。浙江大学と前沿技術連合研究センターを開設。その他多くの大学研究所と連携。
3 研究計画の統合。13カ国99の大学研究室、234の研究グループと、共同研究ネットを介して提携。
達磨院では、基礎研究に立脚し、パラダイムシフトを伴うような技術革新とその応用を研究します。そしてジャック・マー会長は「達磨院は、アリババ本体より、長く生き残らなければならない」と述べています。この言葉には、アリババグループの真骨頂が現れているように思います。技術と研究開発を何より重視しているのです。
参考
https://www.toutiao.com/a6643939976876655112/