企業のロゴデザイン、うっかりすると弁護士からの警告書が来るはめに
1.フォントの著作権とは?
企業が広報用資料を作成する際には大量の文字を使用しなければなりません。フォントには、落ち着いた書体、躍動的な書体、生き生きとした書体、伝統を感じさせる書体、中国風の書体、世界標準の様式の書体などがあります。これらにはフォントの著作権の問題が絡んできます。これらのフォントが無料で利用できないことは案外知られていません。少なくとも商用利用の場合にはタダではないのです。
フォントの著作権については、インターネットで文字セットをダウンロードして無料で利用することは当然のこととして受け止められ、それが習慣になっていますが、実はこれらの文字セットの書体はデザインする企業が制作したもので、商用利用の場合は有償だという点に認識のズレがあるため、方正や儀鼎などのフォントベンダーの弁護士からの警告文書を受け取る企業のトップが出てきています。通常の場合、文字セットの年間の使用許諾料金は数万元ですが、過去の分にまで遡って請求されるケースもあります。警告を無視していると、法的手段に訴えられ、面倒な事態が起こります。
2.どちらの言い分が正しい?
では、フォントの著作権の問題ですが、争いになった場合にどちらに軍配が上がるかとなると、理論上はフォントベンダーです。中国語の書体の制作に費やされる時間とエネルギーは膨大です。アルファベットが26文字だけで、文字セットのデザインが相対的に容易であるのとは状況が異なります。漢字の文字数に関する正確なデータはありませんが、約10万字(北京国安資訊設備公司の漢字文字セットには9万1,251文字が収められています)と言われています。そのうち日常的に使用される漢字は数千字です。1組の文字セットの開発からデザイン、制作には多くのマンパワーとリソースを投じなければならず、しかも企業行動ですから、利潤を生み出さなければなりません。
中国の場合、著作権に対する意識がようやく芽生え始めたばかりで、多くの人にとってインターネット上の無料のリソースを利用することが当たり前になっていて、サービスに課金が始まった当初は戸惑いが見られました。以前はネット上で音楽を聴いたり、動画を見ることにお金を支払わなくてもよかったのに・・・という感覚です。今は、優酷(youku.com)や愛奇芸(iQIYI.COM)などが映像コンテンツを独占配信するようになり、その視聴にはお金を払わなければならなくなりました。会費が必要なのは言うまでもなく、最新の映画では、それを見るにはそのためのチケットを購入しなければならず、映画館に行くのと変わりません。もちろん無料のコンテンツもあるのですが、これは今の時点ではあるということであって、将来的には、音楽を聴いたり映画やドラマの視聴をすることはタダではないということが共通認識になるでしょう。著作権に対する意識の変化です。
フォントについても同じことが言え、フォントベンダーが様々なオリジナルのフォントを開発しネット上にアップロードしていて、それらの個人利用は無料で認められています。しかし商用利用の場合は有償です。事前に著作権については何も言わないでおいて、使用してから著作権について言ってくるのはちょっとフェアではないですが、法的にはフォントベンダーの著作権が尊重され、使用料を支払わなければなりません。
3.紛争事例
2007年8月、北大方正は5組のフォントセットの著作権侵害が行われていると、アメリカのブリザード・エンターテインメント社(暴雪娯楽有限公司)を提訴し、1億元の損害賠償請求をしました。(その後4.05億元まで追加)
2010年5月、最高人民法院はブリザード・エンターテインメント社らに対し権利侵害を止め、北大方正公司が被った経済的損失200万元と訴訟費用5万元を支払うよう命じました。
2011年、江蘇某企業が「笑巴喜」という商標の中で北京漢儀公司が著作権を持つ「笑」と「喜」の2文字を使用していたため、2.8万元の損害賠償を命じる判決が下されました。これは中国で最初の、デジタルのフォントセットを構成する単独の文字も著作権保護の対象になると判断された事案でした。
他にも多くのフォントを巡る裁判例があるのですが、スペースの関係でこれくらいにしておきます。あとは各自が検索してください。
4.著作権侵害に陥らないポイント
まず、企業が宣伝の中で使用するロゴについてですが、ロゴは文字数も少なく、デザイナーも普通は書体のデザインができるし、フォントセットの中の単独の文字の使用は権利侵害にはなりません。北大方正とP&G社との間で争われた裁判の判決がこのことを裏付けています。この争いではP&G側が勝訴しました。
しかし、宣伝用資料の本文は文字数も多く、全て書体からデザインするということは現実的ではありません。何もかもデザインしていたらデザイン費用も高くなってしまうため、このような場合には可能な限り宋体、黒体、楷体などのフリーのフォントを使用するべきです。本文というのははっきりと読めることがポイントで、奇をてらう必要もないのです。フリーのフォントを使用しないのなら、きちんとフォントベンダーから使用ライセンスを購入しておきましょう。
続いて、ポスターやネット上の広告のタイトル部分の書体についてですが、著作権の問題を回避するために、デザイナーに書体のデザインを依頼するか、字体に装飾を施しましょう。
最後に、著作権の侵害者についての注意です。フォントベンダーが追求してくるのはフォントの使用者の責任であり、企業トップの権利侵害を追求してきます。たとえ、個々のデザイナーのパソコンに数十社のフォントベンダーの数万字のフォントが入っていて、個々のデザイナーが使用ライセンスを取得していたとしても、デザイナーが制作した作品については、それを使用する人が責任を負わなければばなりません。企業のトップは広告の中で使われているフォントが著作権侵害をしていないかどうか必ずチェックしなければなりません。
例えば、最近ネット上でしばしば使われる微軟雅黒体(Microsoft YaHei)ですが、このフォントの利用シーンはとても広く、Microsoft のアプリケーションに同梱されているフォントです。実はこのフォントは北方方正公司が開発したもので、利用に制限のあるフォントなのです。パソコンのディスプレイ上に表示させたり、プリントアウトして読むなど非商用使用の場合には無料、Microsoftがあなたに代わって支払いを済ませてくれているのです。しかし、読者のあなたが商用利用の広報活動でこのフォントを利用するとなると使用料を支払う必要があります。
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