中国の監視社会で利用が広がる顔認証
顔認証とは、一人ひとり違う顔の特徴を基に、本人か否かを判定する技術のことで、かつては一部の政府機関や研究所などに利用が限られていましたが、近年はスマホにも活用されるなど様々な場面で使用され始めており、今、中国では顔認証が本格的な広がりをみせています。
日本の顔認証技術が世界No.1
顔認証は、いわゆる生態認証ソリューション技術の一つで、画像の中から顔部分を検出して照合する認証方法で、指紋や静脈、虹彩などを使った生態認証のように特殊な読み取りセンサーを用意する必要がないことから、セキュリティの以外の目的にも利用が広がっています。
日本においてはNECの顔認証技術が、米国政府機関の評価テストにおいて世界No.1の精度・速度を達成しており、PCアクセス認証やビル・施設等への入退場管理などの企業ユースから、顔パス入場などのエンターテイメント分野、さらには出入国管理や国民IDシステム等の国家レベルのセキュリティ管理まで、グローバルに幅広い用途で採用されています。
中国で広がりをみせる顔認証
中国では顔認証が施設への入退室管理といったセキュリティ分野だけでなく、鉄道駅や空港、レストラン、ネットショッピングといった一般消費者にも身近なところで実用化が進んでおり、国内のビジネスホテル等では、チェックインの際の身分証確認を顔認証端末で行うケースが増えています。消費者に身近なものとなる一方で、法整備が追い付いておらず、安全性の面やプライバシー保護の面での懸念が出ているのも事実です。
中国の顔認証技術を担う企業は、「曠視科技」「雲従科技」「商湯科技」「科大訊飛」などで、なかでも「曠視科技」はアリババグループ傘下の金融サービス会社アント・フィナンシャルに顔認証システムを提供しており、また中国銀行が採用しているのは中国科学院重慶研究院から誕生したハイテク企業「雲従科技」の顔認証システムです。
ホテルでの利用はG20サミットがきっかけ
ホテルのチェックインにも顔認証が利用されるようになったのは、2016年9月に浙江省杭州市で開催されたG20サミットがきっかけです。治安維持を目的に中国公安部が全国のホテルに対して宿泊者の身分証確認を徹底するよう指示して、チェックイン時に提示された身分証が本物かどうかを確認する手段として顔認証の導入が広がりました。
商業分野での利用
飲食業界など商業分野での顔認証の導入は、中国でケンタッキーフライドチキン(KFC)を展開する百勝集団(Yum!RestaurantsChina)が2017年9月1日、世界初となる顔認証決済に対応した店舗「KPRO」をオープンしたのが始まりです。店舗には、支付宝(Alipay)の顔認証決済サービス「Smile to Pay」に対応した注文端末が設置されており、セルフサービスで注文後、顔写真を撮影し、携帯電話番号を入力すれば支払いが完了します。
その後、京東(JD.com)も実店舗や無人コンビニで顔認証をスタートさせており、中国では「都市部であればスマホだけで生活できる」と言われてきたのが、「ついにスマホすら必要なくなった」と話題になったとのこと。
鉄道駅自動改札への利用
また鉄道駅では自動改札に利用されており、湖北省武漢市の武漢駅では2017年8月までに駅員のいる改札10カ所に加えて32台の顔認証機能付き自動改札機が設置され、改札を通るには切符と身分証が必要で、撮影と照合を行い5秒ほどで改札を通ることができます。
同様に雲南省昆明市の昆明駅と昆明南駅でも、顔認証付きの自動改札が9月末時点で8台設置されており、磁気切符と身分証を一緒に改札機に入れると、顔写真を撮影して照合を行うもので、3~5秒で改札を通ることができますが、背の低い子供や高齢者などは従来通り駅員のいる改札を通ることになるといいます。
この中国の自動改札については本人確認というタスクが有る分、日本の自動改札より時間がかかるようですが、顔認証付き自動改札機は公安システムに接続されており、容疑者の逮捕にも活用されているとのことで、改札の無人化よりもそちらのメリットのほうが大きいのかも知れません。
銀行ATMへの利用
さらに一部の銀行ATMでは、顔認証による現金引き出しも始まっています。四大銀行で最初に顔認証ATMを導入した中国農業銀行の場合、ATMの画面で「顔認証による引き出し」を選択した後、カメラに向かって顔写真を撮影し、携帯電話番号あるいは身分証番号を入力した上で、さらに従来通り暗証番号を入力すれば現金を引き出すことができるとのことで、キャッシュカードは不要とのことです。
また、全国で稼働する中国農業銀行のATMは10万台を越えていますが、今後順次顔認証対応機に入れ替える計画もあるとのことなのですが、キャッシュレスの進んでいる中国でそれほどにATMの需要はあるのでしょうか。
さらには今年から導入した「WeChat身分証明書」でも顔認証と、あらゆる場面で顔認証だらけです。本人確認を徹底していきたい政府にとって、顔認証の普及は願ってもないことであるのは間違いありません。公衆トイレにまで顔認証を取り入れているほどですから、街のあらゆる場所にある監視カメラが当局の顔認証システムと連動していることは想像に難しくありません。
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