中国向けショッピングカートを比較
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日本と同じ感覚で中国ネット販売ができる!?
たとえ日本国内のインターネット通販で成功したとしても、言語や決済方法、インターネット習慣などが異なる中国では同じ要領で成功できるとは限りません。日本でECサイトを運営する企業でさえも、中国での越境ECサイト構築には慎重姿勢で、自ら越境ECサイトを立ち上げるのではなく海外向けショッピングカートを利用するケースが多いようです。海外向けショッピングカートサービスでは、国内と同じ感覚でサイトを構築すれば、翻訳、現地決済、海外発送はもちろん、SNSやブログを用いたマーケティングまで対応するなど、中国に関して知識がない企業でも容易に越境ECに参入できるようになっていますが、さまざまなショッピングカートサービスの中から自社に合ったサービスを選ぶためにはどうすればよいのでしょうか。中国向けなどにショッピングカートサービスを行う「ライブコマース」「マルチリンガルカート」「ランチカート」の3つのサービスを比較しながら検証したいと思います。
香港で生鮮品通販を開拓 マルチリンガルカート
マルチリンガルカートとは、中国語(簡体字・繁体字)を含む12言語に対応し越境ECで109ヵ国に販売実績を持つ大手ネットショップシステムです。支付宝(Alipay)など海外の決済や海外発送にも対応しています。マルチリンガルカートの取り組みで注目すべきは、日本でネット通販・宅配の実績がある企業の香港でのショッピングサイトの構築・運営をサポートしているということです。日本で厳密な安全基準をクリアした農作物や無添加加工食品などの宅配サービスを展開するオイシックスでは、2009年の香港進出の際、中国語(繁体字)対応のほか、商品の魅力・セールスポイントを広東語で正しく伝えられるか、という課題がありました。オイシックスでは、香港進出に際して日本語を話せる香港出身者を社員登用し、日本語を広東語に置き換えたという額面通りの翻訳ではない香港の人々に響くアプローチ方法を模索してきたといいます。日本であれば定期的に利用するリピーターが多数存在するのに対し、オンラインで生鮮品を購入する習慣のない香港では単発購入の利用者がほとんどだったそうで、日常的に利用してもらうためのハードルは高いといいますが、マルチリンガルカートの利用で2013年3月期と2014年3月期の売上げを比較すると約4倍に成長させることができたそうです。買い物時間の節約と、子どもに安全な食品を食べさせたいというニーズから30~40代の共働き主婦による利用が目立ったとのことで、サイトの周知には検索広告やフェイスブックが役立っているようです。
オイシックスはマーケティングに集中的に取り組む一方で、中国語対応や香港でのサイト構築・運営など自社でノウハウを持たない部分をマルチリンガルカートにアウトソーシングして成功を収めています。また、ファッション、生活雑貨、美容関連、食品の自社規格品などを扱い、ウェブやカタログで販売する「フェリシモ」でもマルチリンガルカートの利用で中国語(簡体字、繁体字)や支付宝(アリペイ)・銀聯カード決済に対応し、香港、中国本土、台湾からの受注に成功。マルチリンガルカートは、日本でマーケティングのノウハウを持つ企業の足りない部分である、中国語翻訳やサイト運営などを柔軟な対応や充実したサービスでサポートし、日本のネット通販企業や小売り企業から支持を得ています。
モール、WeChat、ブログで販促 ライブコマース
ライブコマース(Live commerce)は、英語・中国語圏(簡体字、繁体字)での越境ECや販売促進を行うショッピングカートサービスです。中国への越境ECを手がけるに際してライブコマースを利用するメリットといっていいのは、①同社が運営するECサイト「Discovery Japan モール」へ出店できることと、②中国版LINEといわれるWeChatのDiscovery Japan公式サイトに紹介されること、③公式ブログにて商品記事が掲載されること、の3点でしょう(販売はモールに誘導)。決済方法は支付宝(Alipay)、WeChat Pay、銀聯に対応し中国決済シェアの80%以上をカバー。自社の越境ECサイトを構築する前にモールに無料で出店でき、また、マーケティングから販売、決済まで一連の流れを全て行えるため、ネット販売や中国でのマーケティングのノウハウを持たないメーカーなどから支持されており、日本のWi-Fiレンタルショップや日本の酒類を扱うオンラインショップ、養蜂園などが利用しています。越境ECのオンラインセミナーや同社ブログによる海外での日本製品の売れ筋動向など、越境ECについての知識に乏しい企業でも1から始められるようサポートが充実しているのも特徴です。
微博、チャットなど中国対応が充実 ランチカート
ランチカート(LaunchCart)は、特に中国に強いショッピングカートサービスです。中国の三大決済方法(支付宝、銀聯、WeChat Pay)への対応はもちろん、中国で主流となっている連絡手段のチャットへの対応、店舗に合った配送・税関手続きの提案、中国版Twitterといわれる微博(Weibo)を使ったマーケティングなど中国独自のネット通販環境に応じた販促、決済、配送法を展開。日本語、日本円で商品登録すれば、言語や通貨は顧客ごとに変換され、中国などへの越境ECをすぐに始められる仕組みです。セミナー活動では、中国で知名度の高いBtoC(企業と消費者)のECサイト、天猫(Tmall)や京東(JD.com)といったモールで成功を収めてからの独自サイトの運用を提案するなど、中国での越境ECのさまざまな“成功パターン”も紹介しています。日本企業では、富士フィルムエキスパートやGREE、住友不動産エスフォルタ、産経新聞などが利用しています。
言語・決済・配送、サイト運営など課題が山積み
中国への越境ECサイトといえば、天猫(Tmall)、京東(JD.com)と思われ勝ちですが、近年では化粧品などさまざまなジャンルに特化したECサイトが登場するなどネット通販環境は専門化、細分化しています。そして、今後、注目されると思われるのが自社サイトでの販売でクーポン発行やポイント還元のほか、商品やサービスをよりわかりやすく伝えられる独自デザイン、販売状況に応じたタイムリーなサイトの運営など、自社サイト特有のさまざまな機能を活用した中国での“爆売り”が期待されます。しかし、日本企業の頭を悩ませるのが初期費用や中国独自の言語・決済・配送、サイト運営などの課題でしょう。現在越境ECのショッピングカートサービスを利用する企業の事例をみてみると、初期費用を抑えるほか、自社で中国への越境ECに関してノウハウのある部分は自社でノウハウがない部分は代行サービスに任せる、またはノウハウが全くないので全て任せる、といったケースが多いようです。中国越境EC市場が右肩上がりの中、ショッピングカートをはじめとするさまざまな代行サービスが登場していますが、どういったサービスを利用するかの判断のためには、まず自社の強みや自社ができること、できないこと、の見極めが大切なのではないでしょうか。