Googleは中国のインターネット検閲を阻止できるか?
目次
導入
インターネット検閲大国の中国。その中国で、政府当局の検閲を阻止し、中国国民に自由なネット閲覧の機会の提供を試みる企業があります。Googleです。数年前、Googleは今後10年以内に、政府当局によるインターネット検閲を阻止し、中国国内で検閲から逃れた自由なネット閲覧を可能にすると宣言しました。その進展を確認するとともに、現在までの中国のネット検閲についてみていきたいと思います。
中国のネット検閲に抵抗するGoogle
Googleは言わずと知れた、世界最大のインターネット検索エンジンを提供する米国企業です。中国のインターネット市場へも参入し、2006年当初、中国政府の検閲に協力しており、「天安門事件」、「台湾」や「ダライ・ラマ14世」などの中国政府に不都合なものは、中国国内でGoogleの検索には表示されませんでした。しかし、非民主的な中国政府と自由な情報アクセスを求めるGoogle社の社風と対立すること、また、2009年に中国で中国政府に批判的な政治活動家が所有するGmailアカウントを中国政府が攻撃したことを受け、Google側が検閲を取りやめ、一度は政権に不都合なものも中国国内で表示されるようになりました。その後、Googleは中国政府と交渉を重ねましたが、折り合いがつかず2010年3月23日に中国国内から検索事業を撤退しました。
2013年に、エリック・シュミット(Googleの元CEO。現在は持株会社であるアルファベット社会長)は、今後10年以内に中国国内で、政府当局によるインターネット検閲を阻止し、自由なネット閲覧を実現すると発表しました。それから3年以上経過しましたが、中国のネット検閲の状況に変化があったのでしょうか?
エリック・シュミットの発表を受け、一部では、Googleの所有する豊富な人材や資金をもってGoogleが本気で取り組めば、比較的早期に中国のネット検閲を阻止できるだろうとささやかれていました。
市場参入のために中国の要求を受け入れた他企業
中国市場へ参入したGoogle以外の企業は、中国政府の要求にどう対応したのでしょうか?アップル、フェイスブック、リンクトイン、シスコシステムズ、エリクソン等、他のIT企業は中国政府の要求を受け入れ、検閲機能を自社製品やサービスに組み入れました。Google以外の企業は、中国の巨大で魅力的な市場へ参入するために、抵抗しないか、抵抗する素振りを一旦は見せたものの、結局は中国政府の要求を聞き入れたのです。
世界で最も進んだ中国のネット検閲技術
現在、ネット検閲に関する技術革新は中国で起きており、その技術は世界で最も進んでいます。中国はその進んだ検閲技術を他国に輸出もしています(さらにそれを転売している国もあるようです)。たとえGoogleが中国以外の国でネット検閲の阻止に成功していたとしても、検閲技術は中国で日々進化しているので、中国での自由なインターネット閲覧を可能にするためには、結局中国政府と対峙する必要があったでしょう。
中国は検閲技術を他国に輸出していますが、同時にイランなど反米諸国にサイバー攻撃のノウハウ等も輸出されてしまう恐れもあります。中国で製造し、輸出される通信機器に中国政府の意向を秘めたものが組み込まれる可能性もあります。
中国だけがネット検閲や、外国企業や海外の拠点にサイバー攻撃を仕掛けている国ではないですが、現時点でその技術が世界で一番進んでいるようです。従って、やはり中国を主としてネット検閲・サイバー攻撃の阻止に屈させるのが理に適っているのです。
もっと早くGoogleが仕掛けていれば
政府当局が本腰をいれて検閲環境を強化する前に、検閲を回避するツールがすでに中国で普及していたなら、検閲を阻止するのは比較的容易だったと考えられます。そのツールをアップグレードするなどし、さらに普及させればよく、政府当局がそこから阻止するのは莫大なコストがかかり、困難であったと考えられます。
Googleは時間をかけ検閲を回避するツールを自己開発しようとしました。しかし一方で、自己開発せず、外部リソースに出資することで時間をセーブすることができたはずです。無料の回避ツールを提供する資金力の無い会社はたくさんあります。Googleがそういった会社に出資し、優れた開発環境を提供していたら状況は違ったかもしれません。
Googleが早期に動いて、多くの中国人が海外を含め様々なサイトにアクセスできている状態であったなら、そこから政府がアクセスをブロックするのは、民衆の抵抗もあり、大変であったろうと考えられます。
包囲された中国のGoogle
当初、中国当局にとって、Googleのサービスを完全にブロックするにはGoogleは大きすぎると考えられていました。Googleもそう考え、早めに動かなかったのかもしれません。結果的に、政府当局は中国国内のGoogleのサービスをブロックすることに成功し、2014年にはGメールさえも完全に使えなくしてしまったのです。
中国国外でもネット検閲をする中国:ツイッターの例
2017年5月にツイッターが中国政府からDDoS攻撃を受けました。ツイッターの個人サイトに中国の要人の汚職について掲載があったのが理由とのことです。政府当局は、中国にとって都合の悪い情報のあるサイトなら中国国外であっても攻撃し、そのような情報を消そうとしているのです。しかし、不思議なことに特に誰も怒ってはいないようなのです。ツイッターとしては、自らが攻撃されたと公言したくないのかもしれませんが、なぜ誰も声を大にして中国を非難しないのでしょうか。ツイッターと言えば、米国の現職トランプ大統領のお気に入りのツールです。ツイッターが攻撃されたことをトランプ大統領は何とも思わないのでしょうか。もはや、中国側の主張が黙認されつつあるという声さえも聞かれます。
まとめ
いつかは崩されると考えられていた中国の検閲、監視システムですが、未だに崩される兆しが見えません。政府当局は自国民のサイト閲覧をブロックするだけでなく、海外の、自分たちに不都合な情報を掲載するサイトを攻撃しています。
2009年の政府当局のGoogleへのサイバー攻撃はGoogleの怒りを買い、政府当局のネット検閲を阻止すると宣戦布告をする原動力となりました。ところが、2013年からの数年で状況が変わりました。エリック・シュミットも以前は頻繁に中国について言及し、中国に対する批判的なコメントを発していましたが、最近では中国への言及を避けているように感じられます。これに関しては米国と中国の政府間レベルで何らかの合意があったのではないかとの憶測もあります。現在、中国のネット検閲の状況には変化が見られません。Google側から効果的な施策は何も打たれてないようです。
Googleが中国のネット検閲を10年以内に阻止すると宣言してから、3年以上が経過しました。あと6年半ほどでGoogle側が中国のネット検閲を本当に阻止できるのでしょうか?阻止できないとしたら世界のインターネット勢力図はどのようになっているのでしょう。世界の多くの人がその進展に注目しています。
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