インド洋の楽園が中国海軍基地に?
インド洋に浮かぶ島国のモルディブ、エメラルドグリーンの海のリゾート地で知られるモルディブですが、この楽園に危機が迫ります。
ちょっと衝撃的な記事を目にしたので改めて紹介します。(以下の内容のほとんどは日本経済新聞1月15日電子版「グローバルViews」からの引用です)
民主制が崩れつつあるモルディブ
議会では軍が野党議員を締め出し、公道では野党政治家が頭部をナイフで貫かれ、犯人は証拠不十分で釈放されました。インド洋の楽園と呼ばれる島々のモルディブでは今、軍と司法を掌握する大統領が強権を強める一方、庶民は口をつぐみ、民主制が崩れつつあります。そのモルディブが昨年12月、中国と自由貿易協定(FTA)を締結しました。
メリットのない中国とのFTA
首都マーレと空港島を結ぶ「中国モルディブ友好大橋」は中国の習国家主席とモルディブのヤミーン大統領とで合意した目玉事業でした。このFTAは、2017年12月7日に締結されましたが、直前の11月29日の議会審議は異常なものでした。
1,000ページにも及ぶ協定文書が議会内に滞留したのは十数分だけだったのです。開会後に招集通知を受け取った野党モルディブ民主党議員のファーミィ氏は、出席議員が憲法の規定数に届いておらず「文書を読まないで支持した与党議員だけで可決した」と憤り、現地ジャーナリストは「中国側から習主席との会談日程を急に告げられ慌てて準備したのでは」と分析しています。
魚しか輸出品のないモルディブは、モノの輸出に限れば慢性的な赤字で、対中貿易も赤字続きであり、野党政治家のナディラ氏は「FTAにモルディブ側のメリットはなく、中国人の参入障壁が下がって地元の小売業など庶民が打撃を受けるだけだ」と憤慨しています。
黒字から赤字への転落
モルディブはリゾート地で稼ぐサービス輸出で何とか貿易収支の黒字を保ってきましたが、2016年に赤字に転落しました。主因はヤミーン大統領が進めるインフラ整備で、中国からの機械、セメントなどの輸入が急増しているのです。モルディブの首都マーレの海岸には、中国語で「建世界一流橋梁工程」と書かれた看板が掲げられています。
中国が融資し中国企業が施工するマーレと空港島を結ぶ全長2キロの橋は「中国モルディブ友好大橋」と名づけられており、また空港島の北側にある人工のフルマレ島でも中国工商銀行が融資し、中国企業が7,000戸の巨大住宅地を造成します。
中国主導のインフラ整備は首都マーレにとどまりません。アッドゥ環礁では雑木林の中に突然、赤とピンクで塗られた全260戸という集合住宅が現れます。各地で進む中国主導のインフラ整備は「政府が詳細を公表しないので誰も全体像を知らない」と、在マーレの外交官は言います。異母兄のガユーム元大統領らの了承を受けて立候補し、2013年の大統領選で勝利したヤミーン大統領は政治基盤が脆弱で、インフラ整備で自身への支持を増やそう躍起になっているとの見方があるのです。
膨らむ対外債務
フルマレ島の新築賃貸住宅に入居まもない女性は「20年たったら所有権が移るの」と笑顔を見せますが、人口の70%をフルマレ島に集める壮大な計画を立てるヤミーン政権が「全住人の雇用をどう確保するのか全くみえない」など、政策の合理性に疑問符が付きます。
インフラ整備は対外債務も膨張させています。2016年時点で対外債務は国内総生産(GDP)の35%に上り、国際通貨基金(IMF)は2017年12月の報告書で2021年には51%に達すると警告しており、野党幹部はその対外債務のうち「70%が中国からの借金だ」と分析しています。
政府側はIMFの懸念に対し「インフラ整備は経済成長をけん引する」と反論していますが、在マーレの外交官は「セメントも鉄鋼も食料もすべて輸入するモルディブのインフラ整備は経済波及効果がない」といい、確かにどの建設現場も中国人とバングラデシュ人ばかりで、雇用面でも地元への恩恵は少ないのが実情です。
隣国スリランカが南部ハンバントタ港の99年間の使用権を中国に与えた昨年の事例(※)を引き合いに、この外交官は「債務返済に窮したら島々を中国に譲り渡すしかない」といい、現地ジャーナリストの見方も同じです「今後1世紀、モルディブは主権を失い、中国に逆らえなくなる」と。
(※):スリランカ政府が中国側の甘い提案に乗せられ、高利での資金援助を受け入れた結果、支払いができなくなったスリランカ政府は中国政府に債務軽減を求め、そのかわりに中国側に99年間の運営権と治安警備の権限を譲渡せざるをえなくなりました。
中国が海軍基地建設との噂
経済圏や軍事的勢力圏を西方に拡大する「一帯一路」構想を進める中国にとって、インド洋の真ん中に位置するモルディブは海路の要衝となります。昨年は中国の原子力潜水艦がモルディブに寄港したといわれ、南部の島では中国が海軍基地を設けるのではないかとささやかれているのです。
中東のテレビ局アルジャジーラは2016年に調査報道「楽園を盗む」として、ヤミーン大統領がどのように島々を海外資産家らに秘密裏に売り払って裏金を作り、身内にばらまいたかを克明に報道しました。インフラ整備で「債務のワナ」が深まれば、モルディブが中国軍の島と化していくリスクはますます高まります。
ヤミーン大統領にとっては、1,200もある島々の幾つかが、中国軍の島になっても全く構わないのでしょうが、インド洋で勢力圏を争う中国とインドがひとたび軍事衝突に突入したなら、サンゴ礁の映える島々は一転して、砲火の交わる戦場と化し、失われた楽園となってしまうかもしれません。
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